「頭は冷静に、心は熱く」
結果的に0―3で敗れた。午後8時29分に試合が終わり、西武プリンスドームの大型ビジョンには9時2分からQVCマリンで行われていたソフトバンク戦の中継が映し出された。日本ハムファンがロッテの応援歌を歌い始め、球場に残って待つナインも三塁ベンチに出てきて戦況を見つめた。
試合終了から47分後、2位・ソフトバンクがロッテに勝利。4年ぶりのリーグ優勝は、大谷が先発登板する28日にお預けとなった。9時16分に決着したソフトバンクの勝利を見届けた大谷は、すぐさま立ち上がり、帰りのバスへ歩を進めた。
「(ソフトバンクの勝利は)なんとも思わなかった。明日(28日)取るだけなので、しっかり抑えて勝ちます」
当時のスポニチ東京版1面は大谷らしさが全面にあふれていた。他力での優勝が決まらずナインが派手に手を上げたり、ひっくり返ったり残念がるリアクションをとる中で、大谷が1人だけ表情を変えずにベンチに座って大型ビジョンを見つめていた。頭は冷静に、心は熱く――。これぞ私が知っている大谷そのものだった。集中力は極限まで高まっているように映り、翌日の快投を予感させた。
最高の舞台で前人未到のパフォーマンス
そして、翌28日。伝説が生まれた。大谷は西武戦に先発し、優勝決定試合では史上初の1―0完封を達成し、4年ぶり7度目のリーグ優勝を決めた。わずか1安打で今季最多の15三振を奪う圧巻の投球で10勝目。史上初の2桁勝利、2桁本塁打、100安打を達成し、最大11.5ゲーム差からの大逆転Vに導いた。
西武の先発は尊敬する花巻東の先輩・菊池だった。試合前、首脳陣に頭を下げた。
「こんな最高の舞台を用意してくれてありがとうございます」。栗山監督は涙を流した。その気持ちがうれしかった。大谷は「昨日(優勝を)決められなかったのもそう。自分の番で(先発が)回ってくるのもなかなかない。雄星さん(菊池)が先発ということも僕的には特別な感覚。勝つには最高のシチュエーションだった」と振り返る。
何かに導かれるように回ってきた大一番で、自身初の1安打完封。自身が持つ球団記録にあとひとつに迫る15三振を奪い、4年ぶりのリーグ制覇に導いた。「込み上げてくるものがあったけど(9勝目を挙げ、首位を奪取した21日の)ソフトバンク戦とは違って淡々と冷静に投げることができた」。9連勝で3年連続2桁の10勝目。前人未到の「10勝、20本塁打、100安打」を成し遂げた。