プーチン政権=「ロマノフ王朝」

ウクライナとの戦争でロシア経済は疲弊しており、今年2月24日に公表された世論調査(Russian Fieldが実施)では、38パーセントの回答者が戦争に賛成と少数派になっている。

さらに、同月中旬に発表されたロシア世論財団の調査結果によれば、60パーセントの回答者が「貯金なし」と貧窮の声をあげている。クレムリンの南西3キロに住む友人が今年2月23日の夕方、食料品店の様子をビデオ撮影し、わたしに送ってくれた。夕食前の買いだしの時間帯なのだが、店内にはわずか2人の買い物客だけだった。苦しい家計は、ロシア民衆の切実な問題だ。

いまやロシア国民の多くがプーチンを、ロマノフ王朝の「皇帝」のように思っている。プーチンは自分の仲間に貴族のごとく利権をあたえ、「プーチン王朝」という専制支配を確立したからだ。民衆が貧困に苦悩し、不満をつぶやく姿はロマノフ王朝の再現のようだ。思えば、ロマノフ王朝は第1次世界大戦の参戦による国民の困窮がきっかけとなって崩壊した。

帝政ロシア末期の画家、イリヤ・レーピンによる『ヴォルガの舟曳き』。圧政に苦しみ虐げられる民衆の姿を描いた。(写真=lj.rossia.org/PD-old-80-expired/Wikimedia Commons

ナヴァーリヌィー氏のプーチン批判は、そうした王朝に不満を持つ人々を大いに刺激した。

プーチンがナワリヌイを泳がせていたワケ

それにしても不思議なのは、プーチン政権がナヴァーリヌィー氏の反政府活動を10年間も容認していたことだ。汚職を暴露するかれの言動はずっと以前から、プーチン氏にとって我慢の限界を超えているはずだ。プーチン政権の闇をついており、プーチン氏にとってナヴァーリヌィー氏は最強の政敵といえる。

プーチン政権の思惑を想像してみよう。あえて反政府集会の開催を許可すれば、多くの市民が参加する。治安当局はかれらの顔を撮影し、その画像を手がかりに一人ひとりの氏名、住所、勤務先などの個人情報を炙り出せる。参加者の身元を割り出すことで、勤務先の経営幹部に通報し、解雇をチラつかせながら改心を迫る。

プーチン政権としては、反政府勢力がどの地域に分布し、どれだけの人数、規模なのか、解明できる。まさに、プーチン氏は政敵を最大限に政治利用してきたといえる。

その意味で、ナヴァーリヌィー氏の死は何を意味するのか。今年3月15日からはじまるロシア大統領選を控え、反政府勢力の割り出しの作業が終了したということなのだろうか。ナヴァーリヌィー氏は、プーチン政権にとってもはや用なしとなったのかもしれない。また、大統領選を妨害すると、ナヴァーリヌィー氏と同じ運命を迎えると警告の意味もあるのだろう。