妻のユーリヤ氏に集まる期待
ナヴァーリヌィー氏の死後、妻のユーリヤ氏は「夫の意思を継ぐ」と宣言した。夫の死亡ニュースを知ったのはミュンヘンで開催されていた安全保障会議の場であり、すぐに怒りをあらわにした。
「夫が死亡したというニュースが本当ならば、すべての責任はプーチン個人にあります。このホールにいる皆さん、そして世界の人々といっしょにプーチンの悪に勝利しなければなりません」
そのあとにユーリヤ氏は、娘といっしょにアメリカでバイデン大統領と面会した。
今年2月21日にバイデン氏はプーチンを「狂った野郎」と罵り、「核戦争の懸念は常にある」と警告している。
ウクライナ軍事支援をめぐって欧米諸国の足並みが乱れているなかで、スウェーデンのNATO加盟が正式に承認される見通しとなった。
北欧諸国とバルト三国、ポーランドに挟まれて、ロシアはバルト海からヨーロッパに抜ける航路を実質的に封じられてしまう。反発するロシアがウクライナを舞台とする戦闘を東欧、北欧に拡大させる懸念が高まっている。プーチン政権が崩壊しないかぎり、戦争を止めることもできず、ロシアによる核攻撃の危険性もつきまとう。
プーチンを狙った暗殺テロの可能性
そんな状況下で今後、ロシアにはどんな動きがあるのだろうか。私は3つのケースを考える。
ケース1:3月中旬の大統領選での不正選挙を訴える民衆たちが暴徒化し、抗議集会がモスクワだけでなくロシア全土で起こる。
そこではイスラム教徒たちがキーになるのではないか。いまやロシアの総人口の18パーセントがイスラム教徒だ。対ウクライナ戦争で彼らは大量に動員され、戦死している。「プーチンの戦争」に利用された彼らを中心に不満の矛先が地方行政府に向けられて、建物の占拠など、民衆が暴徒化する可能性はある。
ケース2:プーチン個人を狙った暗殺テロ。
政権批判しても潰される事態が続き、閉塞感がより一層強まれば、突破口はプーチン暗殺しかない。その実行者はロシア国内だけではなく、欧米を中心に英雄になれる。
ケース3:ナヴァーリヌィー氏の妻のユーリヤ氏による反プーチン運動の激化
ロシアではエカチェリーナ2世の人気はいまでも高く、女性指導者待望論が根強く残っている。プーチン政権の弾圧で萎縮するロシアの民衆たちの勇気を奮い立たせることができるのは、「悲劇のヒロイン」としてのユーリヤ氏かもしれない。実際に、戦死者の増大を懸念する女性たち(母や妻)の怒りが、ロシア国防省に向けられている。
300年も存続したロマノフ王朝を打倒するために、革命家たちは「イースクラ(火花)」という名の新聞を発行し、民衆たちの不満を爆発させた。硬直するロシア社会の本格的な変革を望む声が高まれば、ユーリヤがプーチン体制を倒す導火線に火をつけ、新しいリーダーになる可能性は十分にある。