『君たちはどう生きるか』の挑戦状

宮崎駿監督の最後の作品(と当時は言われていた)『君たちはどう生きるか』は、この消費性向に真っ向から挑戦状をたたきつけた事例だろう。

事前には一切中身を公開せず、2023年7月の公開時にあったのはサギ鳥の絵1枚。動画はおろか、主人公が男か女かすら情報がなく、「あとは見てのお楽しみ」と国民的アニメの大家ならではの横綱相撲で、プロモーションゼロでの公開となった。

写真=iStock.com/LeMusique
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だが公開後もSNSで語られるコメントは「良い」とも「悪い」とも言わない遠慮がちなものばかり。公式がネタバレ禁止を強く標ぼうしているだけに、“連作”をつくるはずのミキサーやビルダーたちもキャラクターも音楽も画像すら使えず、ネタバレOKな人のために隅っこにnoteへのリンクを遠慮がちにつけるだけ。

私は小学生の子供を誘って見に行こうとしたが、初めて断られる経験をした。「なんかタイトルがワクワクしない」「絵がコワい」「学校で話題になっていない」。それまでのあらゆる宮崎アニメを見て魅了されているはずの子供が、中身を透かして見られないこの完全にパッケージされたプレゼントボックスを空けることすら躊躇していた。

2022年公開の『ONE PIECE FILM RED』では、ルフィという主人公すら知らない状態で、「Adoが歌っているから」と方々で流れる“ウタ”というアニメ内キャラの画像や音楽に魅了されて、「行ってみたい」とせがんでいた子供たちだったのだが。

よかったのは最初の3日間だけ

想像した通り、『君たちはどう生きるか』は興行収入が失速していく。

最初の3日間は22億円と『千と千尋の神隠し』を超えて順調だったが、10日間で36億円、17日間で47億円という興行収入の積み上げは『崖の上のポニョ』にも『風立ちぬ』にも起こらなかった失速であり、2カ月たっての77億円はもはや100億円に届かないことが確定してしまうような状況だ。

出所=『クリエイターワンダーランド』より(各作品の発表資料から著者作成)

こうしてみるとヒットコンテンツというのは、期待値を最初に煽ることももちろん大事だが、広がっていく角度」が重要である。

『君たちはどう生きるか』も最初の3日間だけでいえば、間違いなく好調だった。だが「1週目と2週目でどのくらいの成長角度がついたか」が、その後の勝敗を分けている。

映画館に入ってから起承転結を味わい、感動してもらうというクリエイターの願いは、もはや届かない時代なのかもしれない。