※本稿は、中山淳雄『クリエイターワンダーランド』(日経BP)の一部を再編集したものです。
すぐにマンガの最終話を確認する人の心理
もはや「順番通り」に消費されることは難しい時代だ。
例えばユーチューブ動画において、100〜200と用意されたシリーズのどれから見始めるかは、作り手側が選ばせることなどできない。好みのジャンルを見た後に、次に見るのはアルゴリズムによってサジェスチョンされた類似動画である。
マンガのアプリにおいては、無料の第1話から読むことは通例でも、その後に第2話ではなく最終話を読むという人も珍しくない。全シリーズの最後にどんな結末が待っているか、そのレビューでどれだけの人が好レビューをしているかは、自分が今から時間をかけるに値するかをチェックする重要な指標である。
すでにアーカイブとしてすべてそろった状態で、みんなが最終話を読んだ後にどんな感想を持ったかというのは、「体験の証明」である。
何百話とある長い長いコンテンツに関しては、ユーザー側にもそれなりの覚悟が求められる。一度入ってしまえば、それなりの時間を投資することになる。だからこそ体験の保証がほしい。
途中で作者の連載展開がうまくいかず、ユーザーが失望してしまっているようなマンガには手を出したくない。主役とヒロインがきちんと最終的にくっつく安心感を念頭に置きながら、“期待して”2話目を読み始めるのだ。
時間ほど限りある資源はない
結末を“透かし見”できるジャンルが増えたのは、偶然ではない。皆いくらでも視聴できるものがあるアーカイブ前提のエンタメ空間においては、「時間」ほど限りある資源はない。この瞬間、この時間を有効に使うためには、流行るかどうかもわからないものを相手に「流行の先取り」などと称して悦に浸っている余裕はないのだ。
皆が口にしている人気のあるコンテンツを効率よく消費したい。それがブランドの確立した旧譜に人が流れる理由でもある。
旧譜の時代に入った時、「入口ではカジュアルに入れるけど、登録して中に入ってみたら見切れないほどのアーカイブがあること」が、コンテンツベースのプラットフォームを作る。
チャンネル登録した人々は2〜3日ごとにアップデートされる新規動画も視聴するものの、むしろそこでテイスティングされて判読された嗜好に従って類似の作品をアーカイブから提示されるという一連の螺旋サイクルによって、本当のファンになっていく。アーカイブこそが人を惹きつけ、「続けさせる」勝因になる。
ファンは今、皆が歴史学者のようなものだ。面白そうな動画主がいたときに、その人のチャンネルをひととおりチェックする。今までどんな創作をして、どのくらい視聴されてきたのか。ソムリエのように外側から色やにおいを確認し、嫌な気持ちになったりしないかを確認して、初めて口にいれる。