感謝を述べて、「もう一度お電話いただけますか」

こんな返しに「そりゃそうだよね」とすぐに共感してくれる方もいますが、その上で、「いやー、でも、こうやって、こういうお電話をいただけると、あらためて子どもに厳しく注意できるので助かります。ありがとうございます」と感謝を述べるのです。さらに前述の「匿名で結構ですから、もう一度お電話いただけますか」を付け加えれば完璧です。きっとほとんどの方が上から目線のクレーマーから、子どもたちを共に育てる当事者として横に立ってくれるはずです。

僕は教員に、こうした一連のセリフとストーリーをOJTの中で教えています。

学校の多くの先生たちは、クレームを言ってくる人は人間性が良くないから、とても説得なんてできないと思っています。しかし問題は、人間性ではありません。教員が相手の立場を理解できていないことが原因なのです。

誰であれ、クレームを言ってくる人たちはものすごくエネルギーが必要なはずです。やむにやまれず電話しなければいけない状況に追い込まれているわけですから、その悩みの立場を考えてあげる。

クレームには「受けて立つな、横に立て」

ただし、決してまともに正面から受けるのではなく、横に立ってあげることがポイントです。クレームには「受けて立つな、横に立て」と僕は教員に伝えています。相手が悪いときでも、「決して責めるな、横に立て」、と。

子どものトラブルで保護者を学校に呼んだ際も、決して親を責めないことです。

工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)

「さすがに今回は、子どもの力だけでは解決できません。ここは大人の出番です。協力して対応しましょう。来てくださってありがとうございます」という感じで始めたいものです。そして、「まずはどうやって本人にお灸を据えるか考えましょう。子どもがお父さん、お母さんに支えられている、そして僕らにも支えられているから、解決できるんだということをしっかりと教えましょう」と。

つまり、保護者と学校は、共に子どもを育てる当事者であろうよと伝えることがポイントなのです。

もちろん、中には当該の教員たちの手に負えないような案件もあります。その時は、「大丈夫。僕がやるから」と校長が対応の前面に立ちます。教員たちからすれば、校長がそうやって最後に責任をとってくれるのは、とても安心感があってありがたいものです。だからこそ校長は、保護者や地域とのコミュニケーション技術を身につけておかねばなりません。

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