「地震予知」で静岡の政治経済はめちゃくちゃに

「地震予知法」の影響は大きく、世間では「静岡県に近づくな」が合言葉になった。

やむを得ず新幹線などで静岡県内を通過する際、誰もが息をひそめて大地震に遭遇しないよう祈る姿が見られた。いまとなっては「笑い話」だが、当時の新幹線の乗客は真剣な面持ちで目をつむって必死で祈り、「早く静岡県を通り過ぎてほしい」と願ったのだ。

何の根拠もないノストラダムスの大予言が信じられたのと違い、こちらは東大助手による巨大地震説だから、当時“超危険地帯”となった静岡県の地価は下がり、伊豆などの観光客は激減した。マイナス効果はあまりにも大きなものだった。

明日起きてもおかしくない大地震の発生に備え、静岡県は地震対策事業に予算を重点的に配分し、他県のような大規模公共事業などを行わないで、被災したあとの復興に備えて膨大な基金を積み立てていく。

県内の公共事業の計画は縮小、変更され、総合防災訓練、地域防災訓練、津波避難訓練など静岡県全体が「東海地震」発生を想定した事業一色に染まってしまった。

いま考えると、あまりにも異常で滑稽な風景が続いたのだ。

「東海地震」は起こらず、名前も消えた

その後、1995年阪神・淡路大震災が起き、北海道、新潟、熊本など他の地域で大地震が発生したが、40年以上たっても静岡県を中心とする東海地域には巨大地震は襲ってこなかった。

2011年の東日本大震災を契機に、東海地震や南海地震などと領域を区別せず「南海トラフ地震」と呼ぶことになり、いつの間にか静岡県から「東海地震」の名称が消えてしまった。

東京大学のロバート・ゲラー名誉教授は「前兆現象はオカルトみたいなもの。確立した現象として認められたものはない。予知が可能と言っている学者は全員『詐欺師』のようなものだ」などと批判した。

これだけ時間がたてば、駿河湾に「割れ残り」があるとされた「東海地震」説が間違いだったことがわかる。

静岡県は「東海地震」予知という「詐欺師」のようなものをすっかりと信じ込まされてしまったのだ。

いまでは、あの強烈なインパクトを与えた「東海地震」の名称さえ知らない静岡県民が増えている。