天皇に好かれるための「文化人サロン」
もっとも、天皇のように父親が絶対ノーと言わなそうな男なら、それこそ相手はよりどりみどり。後ろめたさもなく何人もの嫁さんとセックスできるし、気に入った女性のところにだけ通えばいいわけです。
すると、天皇に好かれて足を運んでもらえるような“魅力”をどう身に付けるのかが、嫁とその父親にとっての大問題になります。その魅力の基準が、当時は品格や教養だったんです。
学校のない時代、自分の娘に天皇を夢中にさせるような品格・教養を身に付けるためにどうしたのかというと、優秀な貴族の女性を何人もスカウトして、言ってみれば家庭教師として側に付け、和歌や習字、音楽などを叩き込みました。彼女たちは「女房衆」と呼ばれ、誰もが相当な教養の持ち主だったそうです。
こうして権力者である父親を後ろ盾にした、将来の皇后・中宮候補である娘、それを囲む女房衆という、文化人のサークルというかサロンがいくつも出来上がっていきます。
華やかなサロンが権力争いの最前線
ここまで来ればもうおわかりだと思いますが、清少納言と紫式部はそういうサロンのメンバーだったんです。清少納言は道隆の長女・定子(高畑充希さん)の、紫式部は道長の長女・彰子(見上愛さん)のサロンにスカウトされ、それぞれがタッグを組んで一条天皇の“一番のお気に入り”を目指します。
定子は本当にドラマチックな生涯を送った女性で、側に付いた清少納言の『枕草子』の中でもキラキラなヒロインとして登場します。一方の彰子のサロンにも、和泉式部や伊勢大輔、赤染衛門(鳳稀かなめさん)といった後に名を残す女流歌人の面々が名を連ねていました。
この華やかなサロンが、実は道隆・道長兄弟の外祖父ポジション獲得バトルの最前線というわけです(次男・道兼の娘の尊子は、道兼の死後に生まれたそうです)。
清少納言の初登場は、2月11日放送分で道隆とその妻・高階貴子(板谷由夏さん)が開いた漢詩の会でした。これを機に道隆夫妻にスカウトされるのでしょう。まひろも同席してましたね。
ただ実際は清少納言は紫式部より10歳ぐらい年上で、実際には宮中にいた時期もズレていたせいか、2人がどこかで鉢合わせしたという記録は残っていないのですが、大石さんはストーリーの中でうまく同席させていましたね。
「光る君へ」の中の道長は、最初は権力争いなどとは無縁のノホホンとしたキャラクターでしたが、道兼をぶん殴ったあたりから少し変わってきましたね。「鎌倉殿」で、田舎の豪族の真面目な次男坊・義時が、血みどろの抗争で勝ち上がっていったのを思い出します。
やがて「この世をば……」というオレは全てを手に入れた! と宣言するような歌まで詠む最高権力者にのし上がっていく、その片鱗を見せ始めたというところでしょうか。
(参考文献:繁田信一『殴り合う貴族たち』角川ソフィア文庫)