原作者の利益を守る「エージェント」とは
またベストセラー作家のスティーヴン・キングは、映画化の方向性について発言権を持てる契約をしている。ストーリーを大幅に変更する際には意見したり、時には自分で脚本を執筆したりすることでも知られている。
ただし彼らのような有名作家でない限り、ここまで制作に深く関わるのは難しい。
そこで登場するのが、エージェントという存在だ。
Literary Agent(リタラリー・エージェント=文学エージェント・著作権代理人、以後エージェントとする)は、著者と出版社の間に入り、作品を売り込んだり出版契約をまとめたりするのが仕事。クライアントである著者の権利と利益を守る、経験豊富な専門家だ。
エージェントは、著者(原作者)が映画プロデューサーやテレビ局と契約交渉する際にも、重要な役割を果たす。
エージェントは原作者と綿密に打ち合わせし、作品に対する創造的なビジョンを理解したうえで映像化が可能な限り著者の意図に忠実なものになるよう交渉する。契約金、著作権、クレジット、クリエイティブ・コントロール、承認権などの条件においても、できるだけ原作者に有利になるように契約を進める。複雑な契約条件を理解し、有効なアドバイスができることも特徴だ。
売りたい出版社が“作者寄り”になるのは難しい
また優秀なエージェントは、現在の市場トレンド、業界や制作会社についても熟知している。そのため、原作者に対し貴重な情報を提供し、プロジェクトについて的確な判断を下すのを助けることができる。トラブルが発生すれば間に入って解決に当たることもある。
それが作家にとってどれほどのメリットをもたらし、金銭的にも執筆環境に関しても彼らを守ることになるかは、言うまでもない。
日本では、こうした仕事は出版社が担うことが多い。しかし出版社もいうなれば既得権益側であり、アメリカのエージェントほど原作者に寄り添うのは難しいだろう。
今年のアカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされている『アメリカン・フィクション』は、作家が旧知のエージェントと一緒に、出版社や映画制作会社と強気で交渉し、かなり無理な要求を呑ませてしまう様子がユーモラスに描かれている。業界での人種偏見なども関わってくるが、こうした仕組みを知るためにはおすすめの作品だ。
原作の映像化にはさまざまなトラブルがつきまとう。例えば『ゲーム・オブ・スローンズ』がテレビドラマ化された際は、原作者のジョージ・R・R・マーティンは当初、番組の制作に関与し意見を提供していた。しかしシリーズが進むにつれて原作からの逸脱が生じ、ファンや彼自身からも不満が噴出した。こうした問題は原作があるドラマや映画で常に発生する。