山梨県側の富士山麓は天皇家から県に譲渡されたもの

「恩賜林」というキーワードで特殊事情を簡単に紹介する。

江戸時代から明治時代に入ると、日本全国の地域、部落などで所有していた山林の大半が国有地に組み込まれた。

1880年前後から全国的に自由民権運動が盛り上がると、政府は国有林を御料林として天皇家の財産に付与してしまう。つまり、そうすれば、誰も手が出せなくなるからだ。

明治国家から付与された山林で、天皇家は日本一の山林地主となる。

戦後になって、天皇家は東京、神奈川、大阪、香川、佐賀、鳥取の6都府県の合計面積に匹敵する、日本全国に及ぶ広大な山林地主だったことが明らかにされている。

その中で、山梨県の山林だけは例外だった。

明治天皇が、1911年(明治44年)3月11日、山梨県土の35%を占める御料林約16万4000ヘクタールを山梨県へ無償譲渡したからである。

1907年、1910年などの相次ぐ大水害で深刻な被害を受けた山梨県を救援するために明治天皇が行ったとされる。

この無償譲渡された山林を「恩賜林」と呼んでいる。だから、山梨県の富士山麓の5合目まで恩賜林が広がっている。

つまり、長崎知事が入山規制を実施できるのは、富士山5合目までの山麓付近はすべて山梨県有地だからである。

だから、これまでの道路を「公の施設」として、他から見れば無理筋とも思える入山規制に踏み切ることが可能なのである。

静岡県の山麓は国有地で川勝知事に打つ手なし

これに対して、静岡県側の登山道は県道だが、国有地(林野庁管理)である。静岡県は土地の権利を持っていない。

だから今回のような、法律の趣旨に適合しているのかどうかわからない「入山規制」を行うことはできない。

そもそも昨年8月22日の会見で、川勝知事は入山規制に消極的な発言をしていた。

筆者撮影
富士山の入山規制に消極的な発言をした川勝知事(静岡県庁)

それだけに、どのような複雑な事情があったとしても、入山規制を実施しようとする長崎知事の英断に期待が集まる。

初めての入山規制がスタートすれば、環境問題の「総合デパート」と揶揄されてきた富士山にとって、画期的な出来事となるはずだ。

15日開会の山梨県議会の審議は注目に値する。

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