人口約67万人の島根県の需給ギャップが小さいワケ
特徴的なエリアとして島根県(充足率89.1%)を挙げたい。
地方圏では確かに労働需給ギャップが大きいと述べたが、島根県は総人口が約67万人、東京の1400万人と比べると20倍以上の違いがあるのに、充足率が89.1%と需給ギャップは比較的小さい。島根県については「人口が流入している都市圏」とは別の事情が発生していると考えられる。それは、いったいなぜだろうか。
本シミュレーションでは先述のとおり、全国の労働需給を計算したあとに国勢調査のデータを用いて都道府県や職種別に按分(比例配分)する方法を用いており、都道府県単位での政策や文化などを個別に反映しているものではない。そのため、もちろん仮説ではあるが、ここでは島根県で働く「女性の状況」について取り上げたい。
島根県による「しまね女性活躍推進プラン」では島根県の女性の現状が整理されており、そこでは働く女性の割合が全国1位であること、子育て世代の女性の有業率が全国1位であることが国勢調査をベースに報告されている。
家事や育児、介護などの負担が女性に偏っているのではないかという指摘もあるため、労働供給の不足が少ないことだけですべての状況がいいと言い切ることは難しいが、地方部における労働供給制約の問題をうまく解決する事例になる可能性がある。現在の小さな芽が、将来には大きな違いとなって現れるかもしれないのだ。
「座して待つと起こる未来」は変えられる
もちろん、2040年の未来において、今回構築したモデルの前提となる社会や労働の状況が現在と同じかと言えば、そうではないだろうし、そうあってはならない。性別や年齢など関係なく誰もが活躍できる世の中をつくることなしに、今後の日本での生活維持サービスは成り立たないのだ。ただこの点は、さまざまな仮定をもとに未来を予測する、シミュレーションが持つ制約の一つとも言える。
逆に言えば、社会や労働のシステム自体にアプローチすることで、労働供給制約という問題に立ち向かうことができるという事実を示すものでもある。人口動態に基づくシミュレーション結果は間違いなく「座して待つと起こる未来」ではあるが、変えることができるのだ。
私たちにできることは、「座して待てば」起こってしまう労働供給制約社会の未来に対して、社会や労働のあり方をどう変えられるかということである。
どのようにすればより多くの人が労働に参加できるようになるか。参加できないとしたら壁は何か。労働供給が“パツパツな”状態から、私たちはどのような手を打てるのか。データがあれば、数字があれば、私たちは議論をはじめることができる。
シミュレーションの結果に、ただ悲観したり諦観したりするのではなく、予測される未来を数字で直視することで、今から具体的な一歩を踏み出せば、私たちは将来を変えることが可能なのだ。