特捜部の標的は事務総長経験者だった

特捜部にとって、安倍派の政治資金収支報告書への不記載や虚偽記入に派閥幹部がどう関与していたかが最大の焦点だった。だが、座長の塩谷立元文部科学相、歴代事務総長の下村博文元政調会長、松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相、高木毅前国会対策委員長、5人衆のメンバーでもある世耕弘成前参院幹事長、萩生田光一前政調会長の幹部7人については、立件できなかった。

1月6日の産経新聞などによると、22年4月に安倍派会長だった安倍晋三元首相がパーティー収入の一部を還流する慣例は止めたいと提案、5月のパーティーでは還流を廃止したが、7月の安倍氏銃殺事件の後、塩谷、下村、西村、世耕の4氏の協議で還流の継続が決まった。事務総長だった西村氏が議論を主導し、還流分を安倍派と所属議員双方の収支報告書に記載しない慣例を改め、還流された議員の団体の収支報告書に個人のパーティー収入として記載する方法も提案したという。

東京地検次席検事は19日の記者会見で、派閥幹部を立件しなかった理由を「証拠上、各会派の収支報告書の作成は会派事務局が専ら行っていた。派閥の幹部が、還付(キックバック)した分をどう記載していたかまで把握していたとは認められず、虚偽記入の共謀を認めるのは困難と判断した」と説明した。

特捜部が設置されている東京地方検察庁九段庁舎(画像=Abasaa/PD-self/Wikimedia Commons

岸田内閣存続のための岸田派解散

永田町で大きな動きが出てきたのが、特捜部の結論と前後しての1月18、19日だった。

18日の朝日新聞が、特捜部は岸田派の元会計責任者を政治資金規正法違反で立件する方針だとスクープした。岸田首相には、岸田派関係者が立件されることは想定外だった。

首相は18日午前、首相官邸でのぶら下がりで「事務的なミスと積み重ねであると報告を受けている」と釈明したが、間もなくして、派として問題を起こした以上、ケジメをつけるとして、岸田派解散を決断する。

まず林芳正官房長官(岸田派座長)に相談し、木原誠二幹事長代理、村井英樹首相補佐官に伝え、午後から根本匠事務総長、宮沢洋一税調会長ら岸田派幹部10人程度を次々と首相動静に載らないように官邸に呼び込み、「攻めの意味から解散しようではないか」と提案した。以前から検討してきたと説明し、「守旧派になりたくない」とも語ったという。

夕方には、田村憲久元厚生労働相、平井卓也元デジタル相を呼び、さらには首相動静に載る形で、上川陽子外相、盛山正仁文部科学相にも解散の意向を伝えている。

首相と岸田派幹部との面会は、いずれも林座長が同席した。自分が部外者だとの認識から、3者面談となったらしい。幹部全員が「首相の判断に従う」と応じたという。

同日夜のぶら下がりで、首相は「岸田派解散検討」という時事通信の速報の真偽を問われ、「解散することを検討している。政治の信頼回復に資するものであるならば、考えなければならない」と述べ、岸田内閣存続のための岸田派解散を表明した。