「上にのぼる」は重ね言葉だが、あえて使われるケースも
× 後ろから羽交い締めにする
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○ 羽交い締めにする
「羽交い締め」とは、攻撃する相手の背中の前に立って、相手の両脇の下から自分の両腕をそれぞれ通し、相手の後頭部で自分の両手を組んで、相手を動けなくする格闘技の技をいいます。レスリングやプロレスリングの世界共通の技名では、「ネルソン・ホールド」とも呼ばれます。
「羽交い」とは、鳥の両翼が交わる部分、また羽の両翼を指す言葉ですが、これを鳥の背中側で一緒に握ってしまうと、鳥が動けなくなる、飛べなくなってしまうことから「羽交いを締める」と言うのです。
つまり、「羽交い」は、「前」から締めることはできません。
鳥でも同じことですが、格闘技で、前から相手の両脇の下に自分の両腕を通してしまうと、相手の顔と自分の顔がくっついてしまい、変な形になってしまいます。
「羽交い締め」という言葉には、すでに「後ろから行う技」という前提条件がありますので、これに「後ろから」という言葉を付けてしまうと、「重ね言葉」になって、相手に違和感を持たせてしまいます。
「後悔」は「後」ですることが前提ですから、「後で後悔しないように」なども「重ね言葉」です。
「上にのぼる」「下にくだる」なども考えてみれば重ね言葉ですが、場面によって誤解を与えないように、こうした言葉が使われることはよくあります。時と場合に応じて使い分ける必要があります。
お願いに「是非」を付けるのは遠慮したほうが無難
× お力になってください
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○ お力添えをいただけませんでしょうか
「力になる」という言葉は、少なくとも室町時代頃から使われています。「頼みどころになる」「助けとなる」「人のために骨を折る」「尽力する」という意味です。
こういう意味だと分かれば、「お力になってください」というお願いをするのは、「私を助けるために、頼みどころとなって、骨を折って、尽力してください」という意味になって、失礼にあたる言い方だということが分かるのではないでしょうか。
この場合の「お力」は、「私の力」を丁寧に言ったものになってしまいます。
もし、後見人がなければ昇進ができなかったような時代、後押しをしてくれる人に、助けを借りるために「お力になってください」と言ったら、「なんと失礼なことを言う者か!」と怒られて、とんでもないことになったのではないかと思います。
こんなときには「お力添えをいただけませんでしょうか」とお願いするのがいいでしょう。
ついでですが、「是非、お力添えをいただけませんでしょうか」などと、「是非」を付けるのも遠慮したほうが無難です。
「是非」という言葉は、「あなたが合意しようが、合意しまいが構わないので」という強い意味があるからです。「否応なしに、なんとか力になれよ!」という意味で取られてしまうと、丁寧なお願いが、かえって仇となってしまいます。