ママたちが帰る「午後3時の壁」をどう解消するか

なぜ夜9時だったかというと、当時、配送業者の集荷リミットがその時間だったから。とにかくギリギリまで製造・包装・出荷作業をしていたい僕らは、配送業者には「最終集荷の時刻をできるだけ遅くしてください」と頼んでいた。

そうすると夕方以降、製造と出荷の作業は佳境を迎える。ところが、ここで「午後3時の壁」が立ちふさがった。

小学生までの子どもがいるママたちは、午後3時までには退社して帰宅しなければならない。子どもたちが学校から帰ってくる時刻だからだ。「さぁ、これから!」という時に、彼女たちが一斉に帰ってしまうのは正直痛手だった。

しかし、困り事に直面したとしても、「できない」と嘆くのではなく、「どうしたらできるか」をとことん考える。それが僕のやり方だ。

みんなにも知恵を絞ってもらい気づいたのは、夜9時をデッドラインと考えているから、作業が夜遅くまでかかってしまうのだということ。夕方をデッドラインと考えて、作業全体を半日前倒しにすればいいじゃないか、ということだ。

「子どもが熱を出したので」急に休む人もいるが…

そこで、前日から作業を始め、夕方5時には製造と出荷を終えられるようにタイムシフト。

そうすることで製造と出荷が滞らず、なおかつ子育て中のママさんが気兼ねなく午後3時には帰れるようになったのだった。

久遠チョコレート豊橋本店で働くスタッフ。出典=『温めれば、何度だってやり直せる』(講談社)より

タイムリミットを夕方5時とはっきり決めたおかげで、みんなの作業効率は以前よりも上がった。もともと普段の家事・育児で段取り力を磨いているママたちだから、締め切り2時間前の午後3時までに自分の担当分を仕上げられるように、一層テキパキと働いてくれるようになったのだ。

その後の働き方改革により、配送業者も夜9時といった遅い時刻には集荷をしてくれなくなっている。タイムリミットを夕方5時に前倒ししていたおかげで、そうした変化にも難なく対応できたのもよかったことだ。

子育て中の女性たちからは「子どもが熱を出したので、今日は休ませてください」といったSOSが急に入ることもある。子どもが在宅の土日や夏休みは勤務できない方もいる。

限られた人数で仕事をしているから、本音を言うと急に休まれると困ることもある。現場の他の人たちのなかにも、繁忙期の土日や夏休みにこそ、彼女たちにもできるなら出てきて手伝ってほしいと思っている人は多いだろう。さらに一歩社会に出たら「みんなが忙しい時に帰るなんて使えない」「これだから主婦は困る」と捉える人も多いのかもしれない。