医療機器では富士フイルムが新たに開発し、12年9月から販売を開始した消化器内視鏡にも触れておこう。同分野では、オリンパスが有名だが、富士フイルムも高い技術を誇る。

光源にレーザーを使用し、がんなどの病変部をより見やすくした内視鏡システム「レザリオ」。胃、食道、大腸などの表層を、自然な色の画像でモニター上に再現するのが特徴だ。とくに病変した微細血管の変化や粘膜にある凹凸のコントラストを強調して映し出すことができ、がんなどの早期発見に役立つという。

従来のハロゲンランプやキセノンランプを光源にした消化器内視鏡は、微細な変化を捉えるのが難しかったが、その点をレーザーによって改善を図った。大手メーカーで内視鏡の光源にレーザーを使ったのは富士フイルムが初めてで、レーザー光の制御には富士フイルム独自の写真技術を応用している。前出の玉井は、「5月に開かれた日本消化器内視鏡学会で、表面の病変がよく見える、明るく診断しやすいと高い評価を受け、今後は浸潤部分までさらに深いところが見えるよう改良を続けたい」と意気込みを話した。

内視鏡システム「レザリオ」

レントゲンフィルムから派生する診断技術を応用した先端医療機器を開発する「診断分野」だけでなく、今まで事業分野になかった「医薬品」を新事業の柱として期待している。過去10年間で総額6500億円を投じて約40社を買収したが、医療分野がその半分以上を占める。

08年に中堅医薬の富山化学工業を約1300億円で買収したのを皮切りに、米メルクからはバイオ医薬品の製造事業を買い取り、さらにインドの後発薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズ(DRL)と提携して、積極的に攻勢をかけた。11年11月には、協和発酵キリンとバイオ医薬品の後発薬の開発・製造で提携し、共同出資会社を設立することで合意している。

世界の医薬品市場では、化学合成薬からバイオ医薬品に主流が移りつつある。バイオ医薬品は化学合成でつくる従来の薬よりも副作用を抑制しやすく、富士フイルムにとっては写真フィルムで培った生産技術や品質管理技術を生かせる利点がある。

富士フイルムが独自に開発した放射性物質でがんを攻撃する「抗体医薬品」の研究も進む。これは、放射性同位体(ラジオアイソトープ)を利用した新型の医薬品で、がん細胞に結びつくと同時に異常な細胞を放射線で攻撃するので、免疫機能が衰えた患者にも効果が期待できる。

13年から米国の医療機関と協力して肺がん患者に投与し、臨床研究をスタートするが、石川隆利取締役執行役員・医薬品事業部長は、「抗体医薬品自身が新しい技術ですし、患部だけに放射性同位体を抗体で運ばせる画期的な技術です。抗体だけでも効果はあるのですが、一歩進めてがん細胞を一網打尽にやっつけてしまう、ピンポイント型の医薬品といっていいでしょう」と、新しい抗がん薬に強い期待をかける。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐美雅浩=撮影)
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