寒い部屋は骨折やねんざのリスクも高まる

同調査事業の委員会で幹事を務める慶應義塾大学の伊香賀俊治教授は、次のように言います。

高橋真樹『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)

「これまでは食生活やライフスタイルの変更などあらゆることを総合して、最終的に血圧を4mmHg下げることをめざしてきました。ところが調査の結果、住環境を変えるだけで3.5mmHgも下がることがわかりました。これには、調査に参加した医師の方たちも驚いていました。これを機に、住まいを暖かくする大切さが見直されればよいと思います」

同調査事業では、住宅を暖かく保つことが、ケガのリスクを減らしたり、他のさまざまな疾病を改善したりする可能性も示されました。例えば、室温と骨折・ねんざとの関連では、平均室温が14℃以上の住宅の居住者に比べ、14℃未満の住宅の居住者は、骨折・ねんざが1.7倍も多くなっています。その理由として、寒さにより皮膚表面の血流量が減り、筋肉が硬直することでケガにつながっている可能性が指摘されています。

また、住宅の断熱改修をして平均室温が上昇した住宅の居住者は、夜間頻尿(過活動膀胱)、腰痛、睡眠障害、風邪、アレルギー性鼻炎、子どもの喘息やアトピー性皮膚炎など、さまざまな健康に関する症状が改善するという報告も出されています。

「18℃以上の室温」が健康を守る

伊香賀教授が関わる別の研究では、脱衣場の平均室温が14.6℃の住まいに暮らす人は、それより2.2℃低い住まいに暮らす人よりも、要介護状態になる年齢が4年遅くなる、つまり健康寿命が4歳分も延びるという結果が出ています。この研究はまだデータ収集量が十分とは言えませんが、それでも、住宅の寒さと健康との関連性は、医師や研究者が当初想定していた以上に大きいことがわかり始めています。

なお、寒さや暑さの感じ方については個人差がかなりあり、本人の自覚症状がないまま疾病が悪化するケースもあります。客観的には低温でも、「そんなに寒くない」と感じたり、長年の生活習慣で気にならなくなっている人は多いのです。

しかし本人が大丈夫だと思っていても、温度差によって血管や皮膚、内臓はダメージを受けています。WHOが18℃以上という基準を強く打ち出した背景には、寒さの感じ方は人それぞれでも、普遍的に健康に影響を与える温度があるという科学的な知見の積み重ねがあります。

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