裏金問題が「しょぼい結末」を迎えた要因

第4派閥の会長だった岸田文雄氏は、2021年の自民党総裁選で第2派閥を率いる麻生太郎氏に担がれて勝利し、第100代首相に就任した。第3派閥の茂木派を加え、岸田総裁―麻生副総裁―茂木敏充幹事長が自民党中枢ラインを占める「三頭政治」で統治してきた。

しかし、麻生・茂木・岸田の主流3派だけでは自民党内の過半数に達しない。最大派閥・安倍派は安倍晋三元首相が銃撃されて急逝した後、「5人衆」と呼ばれる派閥幹部の集団指導体制となっていた。

そこで、5人衆の萩生田光一氏を政調会長に、西村康稔氏を経済産業相に、松野博一氏を官房長官に、世耕弘成氏を参院幹事長に、高木毅氏を国会対策委員長に起用し、主流派に取り込んだ。一方で、第5派閥の二階俊博元幹事長や無派閥議員を束ねる菅義偉前首相を干し上げてきたのである。

岸田首相は政権の「生みの親」である麻生氏に頭が上がらず、いわば傀儡政権だった。最大派閥を率いる安倍氏が他界した後、麻生氏は従前に増して突出したキングメーカーとして振る舞うようになり、重要な政治決定の際は岸田首相を自民党本部へ呼びつけた。

さらには茂木氏をポスト岸田の一番手として重用し、岸田・麻生会談に同席させ、「三頭政治」で岸田政権を思うままに操ってきたのである。

「三頭政治」に生まれつつある亀裂

岸田首相は在任期間が長期化するにつれ、不満を募らせた。特に首相の座を脅かす存在として茂木氏への警戒感を強め、麻生氏主導の「三頭政治」から脱却を探り始めた。

昨年9月の内閣改造・党役員人事では茂木氏を幹事長から外し、後継に小渕優子氏(現選挙対策委員長)や森山裕氏(現総務会長)の起用を画策したが、土壇場で麻生氏に猛反対されて断念し、茂木氏を渋々留任させた。麻生氏から初めて自立を試みたが、失敗したのだ。

自民党副総裁の麻生太郎氏。写真は菅内閣副総理時代のもの。(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

岸田首相はあきらめなかった。その後、財務相を長く務めた麻生氏の反対を振り切って所得税減税を強行し、両者の関係は軋んだ。

内閣支持率の続落を受け、麻生氏は今年9月の自民党総裁選で岸田再選を後押しする戦略を転換し、今春の予算成立と訪米を花道に岸田首相を退陣させ、緊急の総裁選で茂木氏を擁立して主流3派体制を維持したまま政権を移行させる構想を探り始めた。

麻生氏の最大の政敵は、今は非主流派に転落している菅氏だ。菅氏はマスコミの世論調査で「次の首相」トップに返り咲いた無派閥の石破茂元幹事長を総裁選に担ぎ出し、安倍派や二階派を取り込んで、麻生氏ら主流3派に対抗する戦略を描いてきた。

岸田首相が総裁任期満了の9月まで続投すれば、一般党員も投票する形式で総裁選が行われ、世論の人気も党内の支持もパッとしない茂木氏では石破氏にかないそうにない。他方、総裁が任期途中に辞任した場合の緊急の総裁選は、一般党員が参加せず、国会議員と都道府県連代表による投票となる。それなら派閥主導の多数派工作で茂木氏を勝利に導くことが可能だ――。麻生氏が岸田首相に3月退陣を促すのは、そうした事情からだった。