検察の「菅ぎらい」

東京地検特捜部が安倍派と二階派を狙い撃ちした強制捜査に踏み切ったのは、総裁選に向けて麻生氏と菅氏の水面下の攻防が激化する真っただ中だった。安倍派と二階派に大打撃を与えて麻生氏が率いる主流3派体制の優位を決定づける政治的効果は絶大だった。菅氏は不利な情勢に追い込まれた。

検察当局が最も恐れているのは、菅氏の復権である。検察は安倍政権時代、菅官房長官に検察人事に介入され、水面下で暗闘を繰り広げた。菅氏は森友学園や加計学園、桜を見る会など安倍官邸を直撃したスキャンダルで検察捜査を阻む「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務検事長(当時)を重用して検事総長にねじ込もうとした。

最後は黒川氏が産経新聞や朝日新聞の司法記者らと賭け麻雀を繰り返していたことが発覚して失脚し、検察勝利に終わる異例の展開をたどったが、その後も検察は菅氏への警戒感を強め、河井克行元法相ら菅側近への捜査を繰り返し、さらには菅氏ら安倍官邸が主導した東京五輪招致をめぐる汚職事件も手掛け、菅氏を牽制し続けた。

検察庁
検察庁(写真=F.Adler/Self-published work/Wikimedia Commons

検察は「正義の味方」でも「国民の味方」でもない

麻生氏と検察当局は「アンチ菅」で利害を共有してきたのである。安倍派と二階派を狙い撃ちした特捜部の裏金捜査は、総裁選をにらんだ麻生氏の意向に沿う「国策捜査」の色彩が極めて濃い。

検察は「正義の味方」でも「国民の味方」でもない。自分たちの人事や組織防衛を最優先して権力中枢の意向に沿う官僚組織である。「時の最高権力者」の味方なのだ。そして現在の政界の最高権力者は、内閣支持率が一桁台まで落ち込んでいつ退陣に追い込まれるかわからない岸田首相ではない。唯一のキングメーカーとして君臨する麻生氏だ。

麻生氏の政治目的は「安倍派壊滅」による総裁選の勝利であり、安倍派5人衆をはじめ派閥幹部たちが逮捕・起訴されることではない。むしろギリギリのところで安倍派幹部たちの政治生命を守って貸しをつくり、麻生氏ら主流3派に屈服させればそれで良かった。

立件されるのは中堅議員と派閥職員にとどめ、安倍派幹部たちは政治的ダメージを受けつつ刑事責任は免れるという検察捜査の結末は、麻生氏の政治目的にピッタリ重なった。

裏金捜査と総裁選をにらんだ党内闘争の密接な関係

検察捜査で当初から「扱い」があいまいだったのは、岸田派である。安倍派や二階派と違って家宅捜索の対象から外れたものの、特捜部は岸田派も捜査対象であることをマスコミにリークし、「宙ぶらりん」の状況に置いた。

岸田派は刑事告発された裏金額では麻生派や茂木派よりも少なく、永田町でも主流3派で岸田派だけが捜査対象に加わっていることは大きなナゾとして語られてきたのである。