ほかの女に目移りした夫を和歌で糾弾
が、彼女を手に入れたとなると、少しずつ兼家の足が遠のきはじめる。やがて彼女はみごもり、男の子を産むが、その直後、彼女は、夫がほかの女にあてた恋文を発見してしまうのだ。
――まあ、なんてこと!
勝ち気でプライドの高い彼女は、この日から激しい嫉妬にさいなまれはじめるのだ。
言いわけをして出ていってしまった夫の車のあとをつけさせるようなはしたないことも、あえてやっている。今ならさしずめ、私立探偵を頼むといったところである。
相手はじきに知れた。町の小路に住む、さる皇子のおとしだねとかいう女である。そこまでわかればわかったで、なおも胸の中は煮えくりかえる。その後兼家がたずねて来て、しきりに戸をたたいても、あけようともしない。仕方なしに立ち去った彼に、翌日、いや味たらたらの歌を送りつける。
あなたが来ないのを嘆きながらひとり寝る夜は、どんなに夜あけが来るのがおそいことか、ちっとはおわかりですか。夜の明けるのと門をあけるのをかけたこの歌は、百人一首にもはいっている有名な歌である。
子供を亡くし、捨てられた女に「胸がせいせいする」
その後も兼家と顔をあわせれば、わざと冷たくしたり、頼まれた縫いものを断わってしまったり、彼女の気持ちはこじれるばかりだ。が、兼家はもともと移り気だったらしく、町の小路の女との間に子供までつくったが、その子は早世してしまった。女もやがて捨てられてしまう。それを聞いて彼女は書いている。
「いつか私と同じ苦しみを味わわせてやりたいと思っていたら子供までなくして、私以上にひどいことになった。きっと嘆いているだろうと思うと、胸がせいせいする」
とは鬼女さながら、すさまじいかぎりである。
が、町の小路の女との間がさめたといっても、兼家の浮気はおさまったわけではない。時折りは思いがけなくやって来はするものの、次々と女のうわさが伝わって来て、彼女の心は休まるひまがない。