役人は理屈が合っていれば正しいと思いがち

役人は、理屈が合っていれば正しいと思いがちです。しかし人間は、正しいことを突きつけられたとき、それが正しいからといって素直に飲み込めるかといったら、そうではないんですね。正しいと理解することと納得することは、別のことなのです。だから、物事を進めて行くときには、「正しいんだから、これでいいだろう」と言ってはいけないのです。

当時40代だった私は、このことに薄々気づき始めていたのかもしれません。だから、ギリギリのところで質問を引っ込めたのではないか……。

正しいことを言って、関係を悪化させてしまうのは役人がよくやる失敗です。私の部下にも、関係団体との折衝に出かけていってよく喧嘩をして帰ってくるヤツがいました。ある時、関係団体の方からこう言われたことがあります。

「お前のところのアイツは何だ? 理屈は正しいかもしらんけど、浴びせ倒しはダメだよ」

大切なのは、正しいことを主張して相手を打ちのめすことではなく、相手を説得し、納得してもらって帰ってくることなのです。

撮影=今村拓馬
「正しいことを言って、関係を悪化させてしまうのは役人がよくやる失敗」と振り返る

「ものすごく成長する」部下に秘密の教育法

かつて、厚生労働省の先輩で最高裁の判事も務めた藤井龍子さんは、部下が外部の団体と喧嘩をして団体との関係が壊れそうになると、部下に悟られないようにこっそりその団体を訪ねていったそうです。部下には内緒で、なんとか関係を修復して、「もう一度、あの部下を寄越しますからよろしく」と伝え、部下をしっかりと教育した後、実際にもう一度同じ団体を訪問させていたというのです。

そうすると部下がものすごく成長するというので、私も2回ほど藤井さんの真似をしたことがありますが、2回とも大成功でした(笑)。

ちなみに、障害者自立支援法のときにやり合った当事者団体の代表の一人は、こうおっしゃいました。

「自分の財布の中身と相談しながら今日何を食べるかを考える。それが自由というものだ」

どんな福祉サービスを受けるかは、財布の中身と相談しながら障害者自身が決めるべきである。1割負担に対する、彼らしい賛成の表明でした。

(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山田清機)
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