宗教施設の再建には公的資金投入できない原則だが…

とはいえ總持寺祖院は、災害と復興を繰り返し、その都度、不死鳥の如く蘇ってきた過去をもつ。近代において祖院は、1898(明治31)年の火事でほぼ全焼している。

鵜飼秀徳『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

この火災をきっかけに、明治新首都として人口が増大していた東京近郊への移転計画が持ち上がる。地元住民や信者らの猛反対を押し切り、檀家総代を解任(後に復職)してまで、横浜市鶴見への移転を実現させたという。そして能登に祖院としてのシンボルを残した。

つまりは、ピンチをチャンスにかえたのである。当時の関係者の先見の明と、決断力には感服する次第である。

だが、今回は事態が深刻である。地域全体がダメージを負っていることに加え、短期間で2度の被災となったからだ。寺院を取り巻く社会環境も違う。能登は地震が起きようと起きまいと、高齢化と人口減少が著しい地域であった。もはや、寄付で再建資金を賄える時代ではなくなっている。

撮影=鵜飼秀徳
総門前の灯籠2基も倒壊したと伝えられている

祖院だけではなく、被災寺院すべてを再建するのは正直、厳しい状況だろう。わが国は「政教分離」の原則によって、宗教施設の再建には公的資金を投入できないのが原則だ。だが、寺社なき被災地の復興はあり得ない。寺や神社は地域コミュニティの核だからだ。被災地における寺院や神社の再建に、国や行政が資金面を含めた対策を講じるべき時期にきていると思う。

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