能登半島地震で仏教王国「北陸」が負ったダメージ
2024(令和6)年元日におきた能登半島地震では、仏教界にも大きな被害が及んだ。全容は不明だが、被災した寺院は判明しているだけでも数百施設に及ぶ。被災寺院の中には、曹洞宗の大本山總持寺祖院などの中核寺院も含まれている。能登半島を中心とする北陸地方は仏教に篤い地域で知られ、伽藍規模も大きい。それだけに再建には、相当なコストと時間が必要となり、「自力再生」は極めて困難な状況だ。
仏教教団のホームページや、1月10日付の宗教専門紙『中外日報』などによると、北陸における寺院の深刻な被災状況が伝えられてきている。
まず、北陸における寺院分布の特殊性から述べていく。今回、被害が甚大であった北陸3県(石川県、富山県、新潟県)の寺院数は、石川県が1407カ寺、富山県が1595カ寺、新潟県が2871カ寺(文化庁『宗教年鑑 令和4年版』)である。
次に、宗派別の寺院分布をみていく。石川県と富山県に絞れば、全寺院に占める浄土真宗系寺院は7割を超えると言われている。新潟県や福井県でも浄土真宗系寺院が過半数を占めている。ゆえに北陸は「真宗王国」と呼ばれ、仏心に篤い門徒が多い。
浄土真宗系寺院が多い理由の一つは、浄土真宗の開祖親鸞が越後へと流罪になるなど、歴史的に北陸との結びつきが強いということだ。室町時代に入って、本願寺中興の祖である蓮如が越前(福井県)・吉崎の地に道場を開き、北陸における布教に心血を注いだことで、一気に教線が拡大した。
北陸の真宗勢力は、時の権力者を脅かすまでに強大化。加賀(石川県)では1488(長享2)年、大規模な一向一揆が勃発し、織田信長に滅ぼされるまでのおよそ100年間、「百姓の持ちたる国」として自治国家が成立している。
真宗門徒衆の結束力は他の仏教教団よりも、はるかに強い。寺に資金が集まりやすく、そのため、伽藍の規模も概して大規模である。
例えば、富山県の井波別院瑞泉寺の本堂(真宗大谷派)は450畳もあり、国内の木造建築物(床面積)で5位の規模を誇っている。参考までに、世界最大の木造建築物(床面積)は京都の東本願寺御影堂(真宗大谷派)である。国内2位は東大寺大仏殿(華厳宗)、3位は西本願寺御影堂(浄土真宗本願寺派)、4位は東本願寺阿弥陀堂(真宗大谷派)となっており、トップ5の中に浄土真宗系寺院の伽藍が4つも入っている。
浄土真宗寺院の被災状況をみていく。真宗大谷派(総本山東本願寺)では1月14日現在、能登教区(全353カ寺)で「何かしらの被害」が報告されているのが262カ寺で、うち大規模被害(本堂や庫裡)が130カ寺としている。「被害なし」は13カ寺にとどまっている。
さらに金沢教区で118カ寺、富山教区で59カ寺、新潟教区で143カ寺、他教区36カ寺で被害が報告されている。
浄土真宗本願寺派(総本山西本願寺)では、今回の地震によって北陸地方を中心に377カ寺が被災(13日現在)したことを明らかにしている。