発達障害の発生割合は昔からさほど変わっていない

一方で、「NO」という可能性があるのは、10年前よりも発達障害に対する理解が広がり、医療関係者も先生方も親御さんも、関心を持つようになってきていることによって、認知率が高まっていると考えられる点です。

10年前なら発達障害として認められなかったお子さんが、今では認められているケースがあるのです。

医療の現場にいる私の実感としては、「発達障害の発生割合は以前も今もさほど変わらない。ただ、認知数が増えている」と思います。

「グレーゾーン」という言葉は医学的には使われない

ちなみに最近では「グレーゾーン」という言葉をよく耳にするようになりました。

これは、発達障害の特性がいくつか見られるものの、診断基準を満たしているわけではなく、確定診断ができない状態を指す言葉として使われているようです。

岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書)

ただ、医学用語として「グレーゾーン」という言葉を使用することはありません。明らかな「黒(疾患)」と「白(正常)」が認定されることによって、その中間の「グレーの領域」が存在することになります。

ところが、発達障害の場合、疾患と正常の境界をはっきりと分けることは簡単ではありません。身体的な疾患のように、明確な診断の指標は存在していないからです。

このため、「グレーゾーン」を定義することはできず、このような表現をすると、不正確なものをさらに曖昧に表現することになってしまうわけです。

精神的な症状や主観的な症状は、数値化することが困難です。たとえば、痛みの程度を考えてみましょう。「ひどい痛み」といっても、あくまで主観的なものです。どれくらい痛いのかを測定することができません。これが「数値」であれば、境界線を引けます。肝機能障害であれば、「この数値を超えたら肝硬変です」というように境界線を明らかにできるわけです。

発達障害の場合、現段階では診断の目安となる客観的な指標が存在していません。

このため、境界を明確に設定することも困難です。

もっとも私たち臨床医は、診断をつけることを求められます。情報が不十分な場合や症状が明確でない人の場合は、「~の疑い」という形で診断名を書くことはありますが、「グレーゾーン」という用語を使用することはなく、この言葉はあくまでマスコミ用語であることを認識しておくべきでしょう。

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