摂食障害と万引き依存に悩む男性はADHDだった

成人の方のケースになりますが、多様な症状が重なり合っていた実例を紹介します。

以前、私のところに摂食障害に悩んで受診をしに来た男性がいました。高校生の頃から食べ物に対する興味が非常に強く、自分が食べるものにこだわるようになってしまい、その結果として拒食症の症状が出現していたのです。その男性は、私立の有名大学に入学したものの中退し、その後別の大学に入り直していました。

診療を続ける中で、男性は「実は万引きに悩んでいて……」という悩みを打ち明けてくれました。摂食障害と万引きは、関連の大きい行動と考えられています。以前、元マラソン日本代表の女性選手が、好記録を出すために減量をしなければならず、食べ吐きをするようになり、気がつけば万引きするようになっていたというケースがありました。

さらにその男性の治療を続けている中で、「パニック障害を起こしたことが何度かある」とも打ち明けてくれました。そのときには落ち着いていたようでしたが、さらに記憶を遡ってもらうと「小学校の頃は集中力のなさを指摘されていた」ことがわかり、加えて忘れ物やものをなくすクセもひんぱんに見られたことも判明し、背景に存在していたのは、ADHDだったことが明らかになりました。

その男性の家庭では、男性の言動について問題視することがなく、成人になるまで受診の機会がありませんでした。

つまり彼は、

・児童期からのADHD
・思春期からの拒食障害
・成人期のパニック障害

といった複数の症状が重なり、辛い毎日を送っていたわけです。この男性のように、発達障害においてはいろいろな精神疾患が併存し、症状が幾重にも折り重なっていることがあるのです。

子どもの発達障害は増えているのか

では、子どもの発達障害は増えているのでしょうか? その答えは「YES」とも言えますし、「NO」とも言えます。

まず「YES」の根拠は、2022年発表の文部科学省の調査結果です。この調査によれば、全国の公立小中学校の通常学級に、発達障害の可能性のある児童生徒が8.8%いることがわかりました。10年前に行われた前回調査より、2.3ポイント増えています。

発達障害教育推進センターのHPにも「自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒数は、平成19年度以降、毎年、約6000人ずつ増加しています」とあり、増加を裏づける形となっています。