「ADHD症状が明確だがASD症状もある」患者ごとの個人差の大きさ
スペクトラムとは、境界線・範囲が明確ではない状態が連続しているさまを表現する際に使われる語です。つまり、この用語には「その特徴の現れ方の強さに大きな個人差がある」というメッセージが込められているのです。
実際に、患者さん一人ひとりの状態を診察してみると、複数の疾患の症状を伴っていることが多く、単一の病名で語れないこともしばしば見られます。たとえば「ADHDの特徴が明確に見られるが、ASDに類似した対人関係の障害も示している」といった具合です。
また、いくつかの症状が併存している場合においても、「AさんはASD症状よりもADHD症状が強く見られるが、BさんはADHD症状よりもASD症状が強く出ている」という強弱があります。まさに、患者さんごとに異なるのです。
このように、「症状の区分について客観的な指標が存在しない」という基本的な問題に加えて、「診察してみると複数の症状にまたがっていることが多く、特徴の発現の強弱にも個人差がある」という課題があります。
専門医であっても診断が難しいケースは珍しくない
このため、医師からすると、典型的な症状を除いては診断を行うことが難しいケースも珍しくありません。
さらに、生育環境に由来する“愛着障害”的な要素が加わるケースがあります。虐待や育児放棄などを受け、安心・安全の感情を持つことなく育った子どもは、他人とのコミュニケーションをうまく築けなくなったり(反応性アタッチメント障害)、対照的に過度になれなれしい態度をとってしまうことがあります(脱抑制型対人交流障害)。複数の問題行動や精神症状が“愛着障害”と関連している可能性もあるわけです。
さらに、思春期の成長過程は心身が不安定になりやすい時期です。そのため、うつ病や不安障害などの精神疾患が起こりやすくなります。さまざまな言動が併存する精神疾患によって、引き起こされている可能性も加わるのです。
つまり、「症状の評価」「症状の個人差」という発達障害の症状自体の問題に加えて、「愛着障害の影響」「他の精神疾患の併存」という可能性を見極めながら、診断を検討することが必要となります。
けれども医師にもっとも求められているものは、「正しい診断を下すこと」ではありません。むしろ、「患者さん個人個人の生活上の困難さを見極めて、どのような関わり方や対応を行えば、その状態を改善できるか」を明らかにすることです。診断することも重要ではありますが、それ以上に現実の適応を改善させることが何よりも求められます。