「でも、値下げをしたら儲からないって、よく聞きますけど」
「おまえみたいなダメ経営者は、すぐに本に書かれていたことを鵜呑みにするんだな。賃料が高い銀座に店を出して、売れない商品を並べて置くだけのバカがいるか! それに、ただ値下げすればいいってもんじゃない。一番、貢献利益が大きくなるところを探すんだ」
「もう少し、具体的に教えてもらえますか?」
「いいか、今から新しく販売する『クッキーで作ったケーキ』の価格を決めるときに、デパ地下や周辺のお菓子屋で、競合しそうなロールケーキやチーズケーキの価格を調べるんだよ。それより、少し価格を低く設定すれば、たくさん売れるんじゃないのか。それに、価格弾力性は、商品だけで決まるもんじゃない」
「あっ、そうなんですか?」
「おまえ、何もわかっていないんだな! いいか、時間帯でも価格弾力性は大きく変わるんだ。例えば、朝からケーキを値引きしていたら、お客はどう思う?」
「昨日の残りものを売っているのかな、と思うかもしれないですね」
「そしたら、余計に売れないだろ。だから、お菓子なんかは、夕方に値引きするんだ。そうすれば、このお店は新鮮な商品を売っているんだな、というブランド力にもなるだろ」
男が、ショーケースからクッキーをひとつ取り出して、食べ始めた。
「うん、こりゃウマイな」
「味には自信があるんです。嫁さんと2人で、『これなら、絶対に銀座でも売れる!』と思って、頑張って店を出したんですが……銀座の賃料が高すぎるから、お店にお金がなくなっちゃったんですよ」
価格を変動させると、どれだけ販売数が変化するのかを示す指標。価格弾力性を見極めた価格設定をすることで、貢献利益を最大にできる。例えば、価格弾力性が小さい生活必需品(砂糖、塩など)は、値上げしても販売数は落ち込みにくい。一方、価格弾力性の大きい贅沢品(自動車など)は、価格を下げることで一気に販売数を拡大できる。例えば、映画館やホテルが、女性限定の割引サービスを提供するのは、同サービスでの女性の価格弾力性が大きいと考えているからだ。価格弾力性が小さく、値引きをしなくても買う男性にまで、サービスする必要はない。