世界的に見ても低い日本の教育予算

ここまで語ってきたような教育政策上の課題に気づいた現場の先生方が「なんとかしたい」と思ったとしても、なかなか改善策を打てない現状があります。その原因は「教育予算の不足」です。

竹内明日香『すべての子どもに「話す力」を』(英治出版)

日本の公的な教育予算は世界的に見ても非常に低いです。初等教育から高等教育までの公的支出がGDPに占める割合を見ると、2016年の日本は2.9%であり、比較可能な35カ国中で最下位です。OECD諸国の平均4.0%や、EU23カ国の平均3.9%と比べると非常に低いことがわかります。ちなみにトップのノルウェーは6.3%で、フィンランドの5.4%、ベルギーの5.3%と続きます[※8]

ただでさえ少ない教育予算は市区町村によって格差もあります。公立学校の教育予算の出どころは、高校は都道府県から、小中学校は市区町村からで、どちらも自治体が財源になっています。そのため、それぞれの自治体の財政状況、子育て・教育への注力度合い、子どもの人口などにより、振り分けられる教育予算に大きな開きがあるのです。

江戸川区の一人当たりの教育予算は千代田区の3分の1

たとえば同じ23区内でも、子どもの数が少ない千代田区では、令和元年度には児童・生徒一人当たり約53万円の予算が使えています。一方で人口流入が激しい江戸川区ではその額が約17万円と、千代田区の3分の1以下の金額となっているのです[※9](図表3)。

出典=千代田区「児童・生徒一人あたりの小・中学校費決算額23区比較(令和元年度決算)」「区民生活を支えるために重点的に取り組む施策」より筆者作成

それでは企業や個人の寄付があるかといえば、公教育に対する寄付の仕組みはなかなかありません。

予算が潤沢にあれば、必要と思われる施策をおこなったり、外部リソースを導入したりする原資になります。しかしそうでない場合は、そのような取り組みは先生方の意欲や時間外労働に依存することになります。ところが後述するとおり、すでに疲弊しきっている先生方にとってそれは現実的ではない状況なのです。学校内に人手が足りないからといって、予算がなければ学校外の資源に頼ることも当然難しくなります。


※1 佐藤淑子『イギリスのいい子 日本のいい子 自己主張とがまんの教育学』中央公論新社、2001年
※2 今井康夫『アメリカ人と日本人 教科書が語る「強い個人」と「やさしい一員」』創流出版、1990年
※3 増田信一『音声言語教育実践史研究』学芸図書、1999年
※4 同上
※5 本田由紀『教育は何を評価してきたのか』岩波書店、2020年
※6 本田由紀「教育と労働の関係をめぐる社会間の差異─『資本主義の多様性』論に基づく考察と検証─」『「教育学研究」第83巻 第2号』2016年6月
※7 同上
※8 経済協力開発機構(OECD)『図表でみる教育 OECDインディケータ(2019年版)』矢倉美登里・伊藤理子・稲田智子・坂本千佳子・田淵健太・松尾恵子・元村まゆ訳、明石書店、2019年
※9 千代田区「児童・生徒一人あたりの小・中学校費決算額23区比較(令和元年度決算)」「区民生活を支えるために重点的に取り組む施策」2021年

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