大学無償化策は少子化対策とはならない

2つ目の疑問点は、政府の大学無償化が少子化対策として有効なのかという点です。

残念ながら、この答えは「効果は小さい」と言えるでしょう。

というのも、現在の少子化の原因は、結婚している夫婦の子ども数の低下だけでなく、結婚する男女の減少や、子どもを産む年齢層の女性数の減少が大きな影響を及ぼしていると指摘されているからです。

日本総合研究所の藤波匠上席研究員の分析によれば、2020年時点では確かに結婚している夫婦の子ども数の低下も少子化の原因となっていますが、それよりも子どもを産む年齢層の女性数の減少が少子化の一番の原因だと指摘しています(*1)。また、1995年から2005年まで結婚する男女の低下が主な少子化の原因であり、この点に対する対策がスッポリ抜けている状況です。これでは出生率の向上は望めないでしょう。

あと2人、3人産むのはハードルが高すぎる

また、そもそも日本では子どもがいない夫婦や、子どもが1人の夫婦が持続的に増えてきています。国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によれば、結婚持続期間15〜19年の夫婦のうち、子どもがいない夫婦と子どもが1人の夫婦は、1977年では14.0%でしたが、2021年では27.4%になっています(図表2)。

これらの夫婦が大学等無償化の恩恵を受けるには子どもを2人または3人以上産まなければならず、ハードルはかなり高いと言わざるを得ません。これでは出生率向上の効果はあまり期待できないでしょう。

所得制限なしの大学無償化策へ政府の本気度が問われる

これまで見てきたとおり、都の高校無償化策は、制度内容がシンプルでわかりやすく、「子育て負担が減る」と実感が得られやすいものでした。これに対して、政府の大学無償化策は、対象者が限定的で関連する制度も複雑であるため、批判が集まるものになったと考えられます。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

ただし、制度として所得制限なしの大学無償化策が始まったことは事実です。今後この制度が拡充され、第2子、第1子も無償化の対象になれば、少子化への効果もかなり期待できるでしょう。

この政策を推し進める場合、問題となるのは財源です。巨額の財源が必要となるため、年金や医療といった社会保障給付の制度改革は避けて通れないでしょう。また、これまで行われてきた政策の停止・廃止による歳出削減も必須です。

少子化による人口減少は、我が国が直面する未曽有の危機です。今、この危機に対する政府の本気度が試されていると言えます。

(*1)藤波匠(2022)「『子どもをもう1人ほしい』という希望が打ち砕かれている…日本の少子化が加速する根本原因『若者が結婚しないから』が理由ではない」プレジデントオンライン

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