なぜ日本の少子化は止まらないのか。日本総合研究所調査部の藤波匠さんは「上の世代と比べて若い世代の実質賃金は低く、経済的に厳しい状況に置かれている。子育て費用や教育費が高すぎるために、比較的安定しているはずの男性正社員でも希望する子どもの数が減少している」という――。

若い世代は厳しい経済・雇用環境に置かれている

2016年以降、少子化のペースが加速している。2015年に100万人を上回っていた出生数は、6年後の2021年には81万人となり、2022年は80万人割れが確実視されている。

個人の価値観が多様化するなか、結婚して子どもを持つことが当たり前という考え方が時代にそぐわなくなっていることは確かである。しかし、若い世代が置かれた経済・雇用環境が、結婚や子どもを希望する人から、それらの機会を奪っている可能性を無視すべきではない。

わが国は、バブル崩壊以降の低成長のツケを若い世代に結果として押し付け、彼らの苦境から目を背けてきた。そして、経済的理由から結婚や出産をあきらめる人がいたとしても、それは個人的な問題であるとして、政府が積極的な介入を避けてきたツケが、足元の少子化の加速として表れていると考えられる。

少子化急加速の要因と、若い世代が置かれた経済的苦境の一端をみてみよう。

2016年以降の少子化の主因は「女性人口の減少」

わが国では少子化が叫ばれて久しいものの、2015年ごろまでの出生数(日本人)の減少率は年平均1.1%と比較的緩やかなものであった。それが、初めて100万人を割り込んだ2016年以降は、下げ足を一気に速め年率3.5%ペースで減少している(図表1)。

【図表1】わが国の出生数と合計特殊出生率の推移
出典=厚生労働省「人口動態調査」

少子化加速の要因を明らかにするため、出生数の変化を女性数、婚姻率、有配偶出生率(15~49歳の既婚女性が子どもを出産する割合)の3要因に分解する要因分析を行った(図表2)。

【図表2】出生数変化の要因分解
出典=総務省「国勢調査」、厚生労働省「人口動態統計」

その結果、2020年においても、依然として人口要因(女性数の減少)が、出生数減少の主たる要因であったことがわかる。ただし、人口要因による出生数押し下げへの寄与は以前に比べ小さくなってきている。

今後を展望すると、団塊ジュニア世代が出産期をほぼ脱したこと、そして出生数が減ることなく横ばいで推移した1990年代生まれの世代が出産期に差し掛かってきたことによって、出産期女性の人口減少ペースが緩やかとなり、人口要因による出生数の押し下げ効果は、徐々に小さくなっていくことが見込まれる。