「信仰観のズレは感じますよ」

「こういうすごいお義父さんのいる家に嫁いできていかがですか? とんでもない家にお嫁に来ちゃったなという感じですか?」

そのように私が冗談っぽく質問を投げかけると、わかこさんも笑って答えた。

「やっぱり信仰観のズレのようなことは感じますよ。お義父さんはとにかく感謝をして献金をすればいいって人ですけど、私と旦那さんはまだこれから夫婦で子育てもして、信仰心も育ててる段階なので、そういうところはちょっと……本当にね、お義父さんはノアじいさんですよ、黙々と箱舟をつくっている」

ノア? ノアの箱舟の人か? 私がピンときていないのを察して、隣で鴨野さんが解説をしてくれた。

「ノアというのは、旧約聖書に出てくるノアの箱舟で知られる人ですね。ご存知のように、ノアは神様から大洪水がくるという啓示を受けて、1人でコツコツと箱舟をつくりますよね。しかも、その箱舟を海岸ではなく山頂に築きました。それは、洪水が大規模なため、神様がそうさせたのです。さらに、その箱舟建造の期間は120年という実に長き期間でした。周囲の人々から気がふれた男と見られ、愚か者扱いされても神様を信じ続けるという信仰心のある人です。そのノアを義理のお父さんに例えるというのは、ある意味で最高の褒め言葉です、そうですよね?」

わかこさんは、「はい、そうですね」と頷きながらも笑いをこらえて何か言いたげである。

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「ああいう人はなかなかいませんよ」

ただ、そこは長男の嫁である。すぐに義理のお父さんのフォローをしていた。

「でも、なんでも言えるんですよ。お義父さんは本当に優しいし本当に素直な人なんです。ですから私もだいぶワガママを言わせてもらっているので、すごく助かってますよ」

確かに、さっきからわかこさんは伊藤さんに面と向かって「献金」について文句を言っているし、自分たち夫婦と考え方の違いがあることもストレートに伝えている。それを聞いている伊藤さんも特に不快になっているというわけでもなく、ニコニコと微笑みながら聞いている。ある意味で、「信仰」という共通点があるので、世間一般の「舅と嫁」よりも腹を割ってなんでも言い合えているのかもしれないな、と思った。

2時間ほどのインタビューを終えて、私たちは伊藤家を後にした。来た時と同じように駅まで伊藤さんに送ってもらった。電車を待っている間、鴨野さんが興奮冷めやらぬ感じで語った。

「いやあ、ああいう人はなかなかいませんよ。窪田さんが会いたいということで取材を申し込んだだけで、どういう方というのは知らなかったんですけれど、すごい人ですよ。10分の3でも驚きますが、10分の3じゃ足りないから、3分の1を目指したいなんて言っている人に正直、私もあまりお会いしたことがないです」

「そうなんですね、すごい人にお話が聞けてよかったです」