元メジャー投手が見た「一貫した姿勢」

【五十嵐】2018年、大谷選手はメジャーに移籍しました。当時、ナショナルリーグにはDH制を採用していなかったために、大谷選手はアメリカンリーグのエンゼルスを選んだ。メジャーでも二刀流に挑戦するための選択でした。

日本で二刀流を成し遂げたとはいえ、果たしてメジャーで通用するのか。やはり多くの人たちが半信半疑だった。ぼく自身も、挑戦を純粋に応援する半面、メジャーで二刀流なんて可能なのかと感じていました。

しかし大谷選手はたくさんの人の不安を払拭し、期待に応える結果を出し続けた。エンゼルスではプレーオフに進出できなかったけれど、21年、23年にシーズンMVPを受賞した。

こう振り返ると大谷選手は、一貫して攻めの姿勢をとり続けている。彼の選択ひとつひとつを見ていくとリスクを回避したり、守りに入ったりしていない。もちろん本人のなかには、葛藤や悩み、弱気になる瞬間だってあったかもしれません。

しかし彼の野球人生を辿っていくと常に高いレベルでチャレンジを繰り返している。そう考えたときにワールドシリーズ優勝を狙えるドジャースが移籍先の最有力のひとつになると思ったのです。

大谷選手にとってドジャース移籍は、厳しい環境に身を置くことでもあります。名門のドジャースではメディアやファンの厳しい視線にさらされます。巨額の契約ですから、プレッシャーも大きい。結果を出し続けなければならない。実際にドジャースへの移籍を知り、やはり大谷選手らしい攻めの姿勢が貫かれていると感じました。

撮影=小川和行
「今回の契約には大谷選手の勝利への執着のようなものを感じる」と話す五十嵐さん

現状維持ではモチベーションを保てない

――解説者や評論家のなかには、エンゼルス残留を予想する人も多かったように思います。

【五十嵐】確かに、エンゼルス残留の選択肢もあったとは思います。とくに来季は打者として出場しつつも、肘の手術のリハビリにも取り組まなければなりません。慣れ親しんだ環境の方が精神的には楽だという見方もあります。

しかし大谷選手が欲している勝利という点で言えば、エンゼルスのポストシーズン進出やワールドシリーズ優勝には少なくても3年くらいの時間をかけて強化しなければなりません。エンゼルスで勝ちたいのなら、3年から5年の契約を結ばなければならないでしょう。

リハビリが順調にいき、2年後に大谷選手が二刀流に復帰したとしても、まだ戦力は整っていない可能性が高い。もちろんチームは勝利を目指しますが、現実的にワールドシリーズ優勝は難しい。となったときにひとりのプロ野球選手としてモチベーションを保てるか、という問題が出てきます。

ポストシーズン進出争いから脱落したチームの選手は、シーズン後半を自分の成績のためだけにプレーすることになる。プロのアスリートとして自分の成績のために努力するのは当然です。

けれど、ヒリヒリした優勝争いのなかで一丸となったチームでプレーするのか、チームメイトそれぞれが自分の成績だけを優先して試合に臨むのか……。プロ野球選手も人間ですから、どうしてもモチベーションやパフォーマンスに影響が出てしまう。