アメリカ企業が続々参戦
さらに、アメリカ企業の参戦が挙げられる。2015年、F1に参加していたアメリカ籍の企業は45社だったが、リバティ・メディアの一流のマーケティングとマネジメントプロセスを導入し、Amazonやグーグル、オラクルなどそれまでF1に関わってこなかったテック系の大企業をスポンサーとして呼び込んだ。これもエクレストン独裁体制では考えられなかったことだ。
その結果、アメリカ籍の企業は現時点で108社と2倍になっている。F1全体をみても、参戦する10チームが抱えるスポンサー総数は300社を超えている。
アメリカでは、F1よりもインディカーというモーターレースの方がメジャーだった。F1はヨーロッパのものという意識が強かったのだ。
だが、リバティ・メディアによる米企業への積極的な売り込みや、アメリカの放送局ESPNによるF1放送の開始、Netflixでの成功、ここ数年続くライブスポーツの人気もあり、「F1不毛の地」でついにF1ブームが起きたのだ。
観客数で見ると、2018年のアメリカGPの来場者は26万4000人だった。しかし、3年後のアメリカGPには、世界各地で行われた22戦のうちで最多となる約44万人が観戦したのだ。
F1が唯一無二のスポーツと言えるワケ
2017年を端緒に、チームもレーサーもレース場も観客もメディアもスポンサーも巻き込みながら、F1グループという組織体自体は売り上げを伸ばし続け、2022年の収益は25億ドル(約3500億円)という過去最高益を記録した。これは、日本のプロ野球の約2倍、欧州のサッカーリーグに比するサイズだ。
エクレストンという1人の総帥の指揮のもとに始まった小規模なスポーツ団体はこの10年間、急激に成長してきた。営業益や観客数、ネットでの視聴者数などの伸長を考えると、野球やサッカー、テニスといった世界的人気スポーツのなかで、最も成長したスポーツと言えるだろう。
2001年に『タイム』誌で記者のケイト・ノーブルが「(これほどの)巨大産業にしては、F1界というのは驚くほど小規模にまとまっている」と記している。
これだけの巨額と何十億人が注視するにしては、たったの20人の選手、10個しかないチーム、そしていまだ第一世代が残る協会が主導してきた、という点においてF1は唯一無二である。
F1を描いた曽田正人によるマンガ『capeta』(講談社)の表現がまさにこの世界のエッセンスを抽出している。
“毎日何かがある……コンマ1秒けずるために何十億使ったとか、人体に悪影響のある素材に手を出してしまったとか……凶悪で刺激的で、そして純粋ですべてのエネルギーが一点に集中している世界……レーシングドライバーなら、F1という「エネルギー」の一部に自分もなりたいと願わずにはいられない”。