F1が絶好調だ。「F1不毛の地」と言われてきたアメリカで空前のブームになったことなどから、この10年で最も成長したスポーツとなった。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「F1の運営権が2017年にアメリカのメディア企業に移ったことから、一気に市場の開拓が進んだ。スポーツビジネスにとって『見せ方』がどれだけ重要なのかを示す好事例だ」という――。
フリー走行3回目を終えたアルファタウリの角田裕毅
写真=時事通信フォト
フリー走行3回目を終えたアルファタウリの角田裕毅=2023年9月23日、三重・鈴鹿サーキット

なぜ世界中でF1ブームが起きているのか

F1は10チームが2名ずつドライバーを出し全20名で、1年を通じて20カ国23カ所のレース場で競うスポーツだ。

3月から11月までのシーズン中、金・土・日がレース公開日になる。

金曜は試運転となる「フリー走行」、土曜は本試合でのスタートポジションを決めるためタイムアタックの「公式予選」になる。順位の入れ替わりが簡単ではないF1では、ここの順位が決勝に響く。日曜が「決勝」で、これが抜き合い差し合いの本番という形だ。

決勝の1位が[25点]、2位[18点]、3位[15点]とポイントが与えられ、10位(1点)までが獲得できえる。これを23回のレースの合計で年間チャンピオンのチーム・選手を決める。なかなかの長期戦だ。

毎年9カ月間、欧州、南米、アジア、中東とほぼ毎週末のように移動し、火~水でマシン整備、木~日で本番に向けた準備を延々と繰り返す。

全世界で毎年400万人が観戦し、約15億人が視聴する。チケットの値段も破格だ。1万円台の席も周縁部にあるが基本の相場は5万~10万円だ。

過去最高益を記録

2023年9月、鈴鹿で行われた日本GPでは3日累計で22万人が観戦した。

日本のF1観客数は、2006年の日本GPで記録した36万人をピークに落ち続け、2017年に13.7万人と過去最低となっていた。「F1人気の低い日本」にしては久々の上昇基調にある。

【図表1】F1シーズン統計

この傾向は日本だけではない。世界中でF1の人気が高まっているのだ。今年のレースでは、イギリスGPで48万人、イタリアGPやハンガリーGPでは30万人、シンガポールには26万人という観客がレース場に集まった。おそらく今シーズンの入場者数は、22年に過去最高を記録した570万人という数字を超えるだろう。

売り上げも好調だ。2011年では約1500億円だったF1グループの収益は、2022年に25億7300万ドル(約3527億円、レートは当時のもの。以下同)と過去最高を記録した。F1に何が起きているのか。歴史を紐解きながら考えてみた。