2021年のF1グランプリでホンダは大逆転優勝を飾った。技術で劣り、「最速マシン」ではなかったのに、なぜ勝てたのか。元ホンダF1マネージングディレクターの山本雅史さんは「マシンの性能差は勝利の一つの要素ではない。最後に物を言うのは人間力だ」という――。(第1回)

※本稿は、山本雅史『勝利の流れをつかむ思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

初のF1ワールドチャンピオン獲得を喜ぶホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクター=2021年12月12日、アブダビ
写真=dpa/時事通信フォト
初のF1ワールドチャンピオン獲得を喜ぶホンダF1の山本雅史マネージング・ディレクター(左)=2021年12月12日、アブダビ

サプライヤーとしてレッドブルのF1優勝に貢献したホンダ

「ホンダ、F1ラストイヤーでチャンピオンを獲得」。そんなヘッドラインが踊ったのは、遡ること約1年前の2021年12月12日。

昨シーズンのF1グランプリ最終戦アブダビGPで、ホンダのパワーユニット(=PU。エンジンに代わる、バッテリーや回生システムなどで構成された動力システム)を搭載するレッドブルレーシングのマシンを駆るマックス・フェルスタッペン選手が、ライバルであるメルセデス(メルセデスAMG・ペトロナス・フォーミュラワン・チーム)のルイス・ハミルトン選手を最終周にオーバーテイクし、ワールドチャンピオンを獲得した。それは奇跡のレースだった。

ホンダがPUサプライヤーとしてF1のステージに戻ってきたのは2015年。パートナーを組んだチームはマクラーレンレーシングだった。モータースポーツに関心のない人でも、“音速の貴公子”と称されたアイルトン・セナ選手の名前や、彼がチャンピオンに輝いたときの「マクラーレン・ホンダ」というチーム名は耳にしたことがあるかもしれない。この両者の再タッグはF1界を賑わせたが、新生「マクラーレン・ホンダ」が勝利を飾ることはなかった。

2015年シーズンは序盤からトラブルが頻発して苦しいレースが続き、そのまま1年を終えてしまう。ぼくがホンダのモータースポーツ部長としてF1に参加したのは、翌2016年のこと。現場に足を踏み入れ、すぐさま“勝てない理由”を感じ取った。「圧倒的なコミュニケーション不足」がそれだった。当時のマクラーレンとホンダは、互いを信頼するあまり、各々の技術向上さえ図れば成功するはずだと思い込んでいたのだ。