日本人ドライバーの躍進
レーサーはF1という晴れ舞台に立つまでに長い時間を勝ち抜いてきた結晶のような存在だ。
レーシングカートの世界から始まり、カートで地方予選を勝ち抜き、15歳以上が出られるフォーミュラ・Aの大会で優勝を狙う。こうした実績が買われて、「エントリーフォーミュラ」と呼ばれるルノーやBMWなど各レースチーム自体が主催している大会にドライバーが挑戦する。そこで選ばれたものがF3に挑戦する。
F3からがプロの世界だが、これはいわば世界大会の“甲子園”だ(2023年10月から開始されたTVアニメ「オーバーテイク!」はこのF3の下位組織である)。
このF1に出られるだけで、メジャーリーグで投球ピッチに立つような確率なのだ。片山右京で6年(現役1992~97年)、佐藤琢磨(2002~08年)と中嶋悟(1987~91年)が5年、だがこの時代にF1の視聴を卒業したユーザーが多いのではないか。
10年前に小林可夢偉(2009~14)が4年出場していたときは日本のF1人気は下火の最中だった。
だが今、実は久しぶりに2000年生まれの角田裕毅(現役2021~)が3年目の参戦となっており、かつ久々のコロナ明け開催で2023年の鈴鹿がいかに興奮に包まれていたかは想像に難くない。
日本だけでなく、この4~5年でF1の世界は激変してきている。
2017年にF1の歴史は大きく変わった
2017年、F1の運営がエクレストンから、アメリカのリバティ・メディアに移った。
エクレストンは2006年に20億ドル(約2050億円)でCVCキャピタル・グループに権利を売却。その後も会長職を務めていたが、2017年にアメリカのリバティ・メディアがCVCから44億ドル(約4480億円)[負債41億ドル(約4174億円)があったため合計費用は85億ドル(約8654億円)と言われる]で経営権を買収した。これにより、F1の興行を40年以上牛耳ってきたエクレストンはF1の世界から引退した。
運営がアメリカのメディアに移行したことで、F1はスポーツビジネスとして劇的に変化し、過去最大の盛り上がりを見せることに繋がった。
象徴的なのは、2019年に始まったNetflix「栄光のグランプリ」の放送だ。このドキュメンタリーは、初めて映像メディアが克明にレースの裏側にせまった番組となり、皆が臆測するしかなかったF1レーサーやチーム、オーナーの裏側にある葛藤や政治を知る機会となった。
現在すでに5シーズン目、毎年のレースのハイライトドキュメンタリーとなった本作は秘密主義で情報発信について保守的だったエクレストンの退任なくては実現しなかった試みだろう。
各シーズンで5000万時間ほど視聴されているところをみると、1000万人サイズの視聴者がいると想定される。世界中で多くの新規客、とくに若い客をF1に巻き込んだことは言うまでもないだろう。このドキュメンタリーはF1への関心に明らかな影響を与えている。