商売敵からは仲間外れや嫌がらせに遭う
小売り業で革命を起こしたとされる世界的ベンチャーのウォルマートにも300年以上も先駆けて、大衆向けの薄利多売(EDLP=Everyday Low Price)のビジネスモデルを、現実化したのである。
つまり、それまでの商いの方法をすべて否定して、現代まで続く小売りのビジネスモデルを、世界で初めて生み出したんだ。
同時代に生きていればいかにすごいことを三井高利がやり遂げたか、わかるに違いない。何しろ、士農工商の封建社会の身分制度があって、幕藩権力に対して従属するのが豪商、政商の生き残り方だった時代だ。しかも幕府御用達の豪商たちが排他的に既得権益を守るべく、徹底して新参者を排除する根強い商慣習があった。
三井高利の当時の様子がうかがえる三井の『家伝記』や『商売記』があるが、商売敵に仲間外れにされ、邪魔や嫌がらせ行為をされながらも、これらの困難にまともに先頭に立って、挑戦していくリーダーシップは生半可なものではない。
いつの時代も、アントレプレナーが、強烈なリーダーシップとともにたちあらわれるということだ。
27カ条の規則で店員のプライベートも徹底管理
三井高利のビジネスモデルや商売の考え方がうかがえる、年々改訂されていた複数の店規(店の経営の原理原則のようなもの)が残っている。
とにかく細かい。そして、厳しい。徹底的に細かいことまで店と店員(丁稚や手代のこと)の規則として定めて、署名までさせている。高利のパラノイア(偏執症)ぶりは想像を超えるものだ。
27カ条もあるのですべてを記すのは割愛するが、たとえば、掛け売りや紛失などによる損害は一切責任者の負担とするとか、売れ残り品は見切りをつけて古着屋に処分することとか、遊興や悪友との交わりは営業上の利益があっても敢えて禁ずる、などの方針を明記している。大酒や酩酊を慎むこと、健康に留意すべきことなど、私生活にまで立ち入った規則も書かれている。
印刷技術のグーテンベルクや自動車のヘンリー・フォードのようには世界で知られていないが、三井高利がなし遂げた数々の商売のイノベーションは、ものすごいことだと思わないか? 三井高利こそ、日本が誇るアントレプレナーの最初の人だとわたしは思っている。