追求したのは美しさではなく機能性
これは、もともとかれが、二つの大学で、ファインアートと、家具やインテリアのデザインを学んでいたことからきているのだろうが、まさに、起業家ならではの発想法だ。起業家ジェームズ・ダイソンが自分に与えたタイトルにふさわしい。
かくして、デザインを学歴のバックグラウンドに持つジェームズ・ダイソンは、デザインがエンジニアリングに役立つということを確信していた。デザインと言うと、ただ、きれい、かっこいい、見た目がいいということを考える人がいるかもしれないが、かれにとってのデザインとは、まさにファンクション。日本語でいう「機能」だ。デザインが機能を果たすということに対して、確信を持っている。
つまり、単に美しいデザインの掃除機をつくろうと思っているわけではなくて、このデザインが最も機能的に働く掃除機になるという確信を持ってデザインしている。
実際、ダイソンの掃除機は、それまでのどの掃除機よりも機能的に動くデザインになっている。その結果、かっこいい。これがかれの重要な着眼であり、それまでの家電、たとえば日本の家電メーカーとは根本的に思想が異なる。
日本の家電はデザインか機能のどちらか
日本の家電メーカーは、徹底的に機能にこだわる。なかには、デザインを売り物にしているものもあるけれど、すると機能が劣る。機能的な方向と、デザインの方向が二つに分かれ、デザインはいいけど機能はいまいちだね、となるか、機能はいいけれどデザインはいまいちだね、となるかのトレードオフの関係になってしまっている。
それに対し、ジェームズ・ダイソンは、デザインこそが機能を実現するという素晴らしい着眼をし、実際に、デザイン的に美しく、かつ、そのデザインが支える画期的な機能を誇る、世界でも有名な家電メーカーを一代で築いた。
2015年、ジェームズ・ダイソンはテスラのイーロン・マスクがつくったEV(電気自動車)に対して、自分だったらもっとすごいものに変えられると開発製造を宣言したが、残念ながら、のちに断念。年齢的な限界、自動車業界での経験の足りなさがあったんだろう。莫大な資金が必要になるためお金の限界もあったかもしれない。個人的には、かれには80歳になるまでに元気を取り戻して、ぜひ新しい自動車をつくってほしいと思っている。