「ラスト・ベッカーズバーガー」という演出

なお、最後の期間に限定販売されているラスト・ベッカーズバーガーをセットで注文すると記念のクリアファイルがもらえるとのことで、せっかくの機会だからとこれを目当てに足を運んだ人も少なくなかったようである。

筆者撮影
「ラスト・ベッカーズバーガー」を食べて改めてさみしくなった

ちなみにこのラスト・ベッカーズバーガーは、1990年代に販売されていた主力の「ベッカーズバーガー」を現代の食材で可能な限り再現したもので、「ベッカーズが皆さまにお届けする最後のハンバーガーです」(JR東日本クロスステーション)といった呼びかけが行われていた。ブランドクローズのきわにこれは甚だ心揺さぶられる演出である。

筆者も少し足を伸ばして味わってきたが、大変おいしく、ゆえに改めてさみしく思われたのであった。

もっと支持されてもよかったはず

JR東日本クロスステーション フーズカンパニーは今回の事業撤退の理由について、「コロナの影響、材料費・人件費の高騰で厳しい経営状況が続いていた。少数店舗での存続は仕入れ及び人材運用の面でスケールメリットが発揮できず、好転の目処も立たなかったため」と、説明している。

ハンバーガーチェーンにおいてスケールメリットは極めて大きな効果を発揮する。同社による上述の自己分析にある通り、コストを抑えて営業の体制をより盤石にできるのはスケールメリットの働きである。

しかしそれと同様かそれ以上に凄まじいのが、スケールメリットによる認知度の向上、ひいてはブランド力の獲得である。外出先で何か食べようと思いつくがその日は冒険せずに知った味で済ませたいとき、マクドナルドは大概どこの駅にもあるから安心感ある受け皿としてやはり強い。結果、「いつでも選ばれるハンバーガーチェーン」としてマクドナルドはその立場をさらに盤石なものにしていく。これが大手のブランド力である。

ベッカーズはおいしかったし、「品質にこだわる」とみずからうたう割には値段が高くなく、むしろセットメニューならマクドナルドと大差ないくらいの値段だからもっと支持されてもよかったはずのクオリティを備えていた。異なる点はスケールメリットに裏打ちされたブランド力であり、その差が明暗を分けたということであろう。