会話の口火を切る

新任のリーダーがなすべきことについては、大きな誤解がある。リーダーは初日からすべての答えを用意していなくてはいけない、という思い込みである。実際にはその正反対が正しいのであって、最初の数日間ないし数週間は、質問をし、話を聞き、学んでいく時期なのだ。

「ばかげた質問をしても大目に見てもらえる時期というのは、職業人生の中でめったにあるものではない」と、マッキンゼーのトロント支社取締役、スティーブン・ベアは言う。「新しいポジションに移って早々には、組織の実情を本当に把握するための質問、人々に胸襟を開かせる質問をするチャンスがある」。

リーダーが新しい組織の中でうまく仕事をしていくためには、決定はどのようになされ、どのように伝えられているか、最も信頼できる情報はどこにあるか、アイデアはどのように流れていくか、非公式な権力中枢が存在しているか等々を把握することが必要だ。リーダーはこうした情報を、就任早々に直接、間接に質問をして、じっくり話を聞くことによって集めていくのである。

新任のリーダーは、自分がこれから組織に提起していく検討課題をまとめるためにも、質問を使って必要な情報を集める。ベアはこのプロセスを、次の5つの質問の「バケツ」を満たす作業と考えている。

[1] この組織を取り巻くビジネス環境はどのようなものか。それはどのように変化しているか。
[2] 自分はこの組織に何を期待するか。今から3年ないし5年後に、どのような組織になってほしいか。
[3] 他の人々は私に何を期待しているか。それらの期待は現実的か。また、(組織に対する)私のやろうとしていることと一致しているか。
[4] この組織が取り組むべきビジネス上の主な課題は何か。優先課題は何か。
[5] 自分のチームに必要な人間は誰か。誰を残すべきで、誰については様子を見る必要があり、誰を入れ替えなくてはいけないか。