アイデア会議が行き詰まるとき
伊藤氏たちは常に新商品開発にあたって、エクストリーマー・リサーチを行っていたわけではない。むしろ、インターネットでの検索などから情報を集めるデスクリサーチ、あるいは開発者自身の日常生活のなかで行う観察などが、定番といえるアプローチだった。そしてそれらの結果を持ち寄って、アイデア会議を開き、討議を重ね、新しいアイデアを見つけ出していくという作業が主流だった。
しかし、時にはアイデア会議を開いても、見たことのあるようなアイデアしか出てこないことがある。これでは駄目だと、その場にいる誰もがわかっているのだが、これはというアイデアは生まれず、気まずい時間が流れていく。
伊藤氏たちはこのような場合に、エクストリーマーの観察や聞き取りを実施していた。日頃接点をもたない特殊な人たちと向き合うことは、アイデアの生成に新展開をもたらすことが少なくないことを、伊藤氏たちは実感していた。
グランピング施設開発における応用事例
では、エクストリーマー・リサーチは、具体的にはどのようなかたちで、製品やサービスの開発にインサイトをもたらしてくれるのだろうか。その一つの事例として、独立後の伊藤氏がかかわった「GLAMP CABIN(グランキャビン)東条湖・丹波篠山」という観光宿泊施設の開発プロセスを見ていこう。
GLAMP CABINは、大阪市に本社を構え、デザイン事業やマーケティング、飲食事業を手掛けるENJOY TRUSTが、兵庫県加東市に2023年3月にオープンしたキャビン(小屋)タイプのグランピング施設である。
GLAMP CABINでは、宿泊者はテントや調理器具などを用意することなく、ホテルを利用するかのように、アウトドアスタイルの宿泊経験を気軽に味わうことができる。GLAMP CABINは5棟のキャビンと、スタッフが常駐するレセプション棟の、合計六つの建物によって構成される。
GLAMP CABINは開業に向けて、スタンダードなキャビンの他に特徴的なコンセプトのキャビンが欲しいと考えていた。この開発を伊藤氏が、GLAMP CABINから委託されることになったのである。