ヨタ生産方式はアマゾンの商品ページにも
これ以外に、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が発行する雑誌『McKinseyQuarterly』誌に寄せられた、元アマゾン社オペレーション管理責任者マーク・オネットーのインタビュー記事「When Toyota met e-commerce: Lean at Amazon(トヨタとeコマースが出会うとき:アマゾンにおけるリーン生産方式)」も参考になる。
この記事によれば、アマゾンでは、倉庫作業や物流の効率化のためにカイゼンがおこなわれているほか、アマゾンのシステムの中にもカイゼンを支えるアンドン・システムを導入しているというのである。
なお、アンドンとは、生産ラインに問題があった場合に、ランプ等で異常を周囲に伝える日本語由来(行灯、行燈)の経営技術である。場合によっては現場の作業リーダーがラインを止めて、その場で問題を解決することもある。アンドンは、トヨタ生産方式の構成要素の一つで、海外であれば工場長にしか認められない「ラインを止める権限」を現場に委譲しているという特徴がある。
これをサイトに導入するというのは次のようなことだ。
まず、アマゾンのサイトの中にある商品ページを、いつでも切り離せるように適度な大きさで独立するように設計しコーディングしておく。そして、商品ページに何か不具合があるとエンジニアが気づくと、すぐにそのページを切り離して非公開にする。
同時に、問題が生じたことをそのエンジニアが社内に向けて周知するのである。そして、チームでの問題解決を即座におこない、問題がなくなった時点で、切り離していたページを復活させる。
この状況はとても矛盾していないか
このように、GAFAMの一翼をになうアマゾンは、日本のカイゼンを取り入れながら着実に成果を生みだし続けている。
その一方で、日本の産官学は、カイゼンという日本発の経営技術を急速に捨て去りつつある。日本企業はカイゼンに注力するよりも、アメリカからやってきた「○○イノベーション」や「デジタル○○」式のコンセプトを追い求める傾向にあるのだ。
日本の政界・官界も、カイゼンといった古臭い言葉をいまさら白書などで取り上げずにアメリカ発コンセプトに追随している。そして、日本の学界でも、カイゼンの研究という分野は縮小する一方だ。カイゼンの研究も、今ではアメリカが主流になりつつあり、カイゼンをめぐるコンセプト化がおこなわれつつある。
これは、ある種、非常に矛盾した状況である。
日本の産官学は、アメリカに追いつかんとして、積極的にアメリカ発の経営コンセプトを受け入れてきている。アメリカで良いとされたものを必死で取り入れてきたわけだ。また、「日本からなぜアマゾンやグーグル、フェイスブック、アップルといったイノベーターが生まれないのか」と問われることも多かった。