ファストリが目指す「情報製造小売業」とは

1.お客様一人ひとりとダイレクトにつながり、双方向の情報発信を可能にする顧客基盤
2.お客様の声を基に、お客様が求めるものを商品化し、商品を情報化
3.お客様が求めているものを、必要なタイミングで、必要な分だけ、作り・運び・販売
4.一人ひとりのお客様に寄り添い、いつでもどこでも、便利で楽しい購買体験
5.一元化された情報をもとに、お客様のために全社員が連動する働き方

つまり、情報製造小売業とは、商売を通して「お客様満足を追求する」「より良い社会を実現する」ことをより高いレベルで目指すための事業の在り方だ。そこには、倫理観に裏打ちされた正しさ、現状を否定し続ける革新性が欠かせない。それらを失ったとき、店は「店主とともに滅びる」ことを柳井会長は常に心にとどめ経営にあたっている。

倉本長治は、こんな言葉も遺している。

商売は今日のものではない。
永遠のもの
未来のものと考えていい。
それでこそ、
本当の商人なのである。
人は今日よりも
より良き未来に生きねばいけない。

商いとは永遠ものの、未来のものという倉本の言葉に、柳井会長が目指す「より良い社会の実現」との一致が見られる。唯一の「座右の銘」として、倉本長治の教えを掲げる柳井会長が目指すのも「今日よりもより良き未来」なのである。

「ロマンを持たなければ商人ではない」

話をさらに過去へと戻そう。

1984年、柳井氏は父の後を受けファーストリテイリングの前身、小郡商事の社長に就任。「ユニークな衣料(clothes)」というコンセプトから「ユニーク・クロージング・ウエアハウス(Unique Clothing Warehouse)」という店名で同年6月、広島市に第一号店を開店する際のことである。

撮影=大沢尚芳

「本屋で雑誌を買うように、ファッションを気軽に買える店」として「どこよりも早く、 大量に販売する」とは、当時35歳の柳井青年が一枚の手書きの企画書に記したコンセプト。今では国内外に2400店舗以上を展開するユニクロは、こうした店主の志から生まれた。

「10回新しいことを始めれば9回は失敗する」というとおり、柳井氏は挑戦を続け、失敗に学ぶ道を歩み続けた。「頭の良いと言われる人間に限って、計画や勉強ばかり熱心で、結局何も実行しない」という彼の言葉を、われわれは自問しなければならない。

「ロマンを持たなければ商人ではない。勇気がなければ商人ではない。挑戦できなければ商人ではない。忍耐がなければ商人ではない。そして、変化に対応できなければ商人ではない」と倉本長治は言っている。