「実家で母の手料理を1日3回規則正しく食べた」

メンタル不調で元気がない状態で、慣れない食事作りをするのは難しいと思われたので、私は、休職に入ったらすぐに実家に帰り、しばらくそこで暮らすことをBさんに提案しました。すると、主治医にもそう言われたとのことで、素直に帰省しました。

Bさんは数カ月間実家で暮らす中で元気を取り戻し、東京に戻っても状態が落ち着いていたので、今はもう復職し元気に働いています。

このケースの場合、東京の一人暮らしの環境から脱したこと、実家で定期的に人との交流があったこと、実家の安心感などがあったことがBさんの改善に影響したと思います。しかし、Bさんに実家に帰って何が(回復に関して)よかったと思うかを聞いたところ、「実家で母の手料理を1日3回規則正しく食べたこと以外、特に特別なことはしていない」とおっしゃっていたのが、今でも印象に残ります。

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食事とメンタルヘルスの関連はまだまだ分からない

今のところ、食事とメンタルヘルスに関しては、観察研究(食事習慣をありのままに観察し、何らかの意図を有した直接的な介入を加えない調査方法)では、特定の食事パターンがメンタルヘルスを向上させる、またはうつ病を予防するという結論には至っていません。

観察研究でわかっていることは、

・海外の論文ですが、果物、野菜、全粒穀物、魚、オリーブ油、低脂肪乳製品を多く摂取する“健康的食事パターン”は、うつ病リスクを有意に下げることが示されています。

・同時に、赤身・加工肉、精製穀物、菓子、高脂肪乳製品、バター、じゃがいも、高脂肪肉汁を多く摂取し、野菜や果物の摂取が少ない“西洋式食事パターン”は、うつ病リスクを有意に高めることも、示されています。

・一方、日本人における食事バランスガイド遵守とうつ病のリスクに関する検討では、統計学的に有意な関連は認められなかったものの、豚・牛肉よりも、魚・鶏肉を多く食べる傾向が強いことが、うつ病予防には有効である可能性が示されています。

以上より言えることは、ある種の食事習慣は、うつ病を予防する可能性があるものの、どの食材をどれくらい食べることがいいのかまではわかっていないということです。また、上記のような食事習慣を継続したからといって、うつ病以外のメンタルヘルス不調(パニック障害、不安障害など)の予防になるとは全く言えないということです。