食事習慣でうつ病を予防できるかは不明

また、介入研究(研究者が対象者に対して研究を意図した介入を加える研究)からみた食事習慣とうつ病については、

・食事はうつ症状の治療およびセルフマネジメントに一定の役割を担う可能性はあるものの、うつ病診断を有さない者におけるうつ症状軽減効果は小さいとされています。

・別の介入研究では、食事介入は有意にうつ症状を改善させるが、不安症状の改善には効果を示さないことや、管理栄養士が栄養指導を行ったほうがうつ症状に対する効果量が大きいことが言われています。

・別の研究では、食事指導はうつ症状の改善に効果を示す可能性はあるものの、食事指導によるうつ症状予防はまだ困難であると結論づけています。

・治療効果的な面では、うつ病に対するオメガ3系脂肪酸の投与が有効であるとする報告は繰り返し公表されています。

以上より言えることは、うつ病と診断されたら、栄養士に食事習慣の指導を仰ぐのは有効かもしれないということです。決して、普段からの食事習慣がうつ病予防になるという話ではなく、また、オメガ3系脂肪酸がうつ病の予防になるという話でもありません。

色とりどりの野菜、肉、穀物
写真=iStock.com/nehopelon
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腸内細菌叢の影響が指摘されてきた

私が最近、食事習慣とメンタルヘルスに関して気になるのは、腸内細菌叢(腸の中に住んでいる細菌たち)と脳の関係(腸-脳軸)についてです。腸内細菌叢がメンタルヘルスに影響を与えることが示唆されているのです。

簡単にいうと、腸内の善玉菌のバランスと腸の健康が、気分やメンタルヘルスに影響を与えるというのです。具体的には、腸内細菌にはセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の産生能力があるかもしれないこと、腸内細菌の状態が良くないことは体内の炎症を増加させる可能性があり、これが抑うつにつながる可能性があることなどがわかってきました。そのほかにも腸内細菌叢は、ストレス反応や免疫システムに影響を与えている可能性も現在指摘されています。

そして、腸内細菌叢を良好に保つためには、プロバイオティクス(有益な細菌)とプレバイオティクス(有益な細菌の成長を助ける食物)を摂取、つまり善玉菌を多く含むものを食べることやバランスのいい食事が大切だと以前より言われています。しかし、最近は、アルツハイマー病や花粉症の人には善玉菌が多いとする論文やそんなことはないと反論する論文や、善玉悪玉という考えは間違いで細菌の多様性こそが大切という説もあり、まだ定説はありません。