『プロジェクトX』の主人公になれるチャンスを逃さないために
かつて、NHKに『プロジェクトX ~挑戦者たち~』(2000年3月~2005年12月放送)という番組があったのをご存知でしょうか。
主に戦後から高度成長期の日本を舞台に、実在の企業で画期的な新製品やサービスを開発するプロジェクトチームなどが、幾多の困難を乗り越えて成功する姿を追ったドキュメンタリー番組で、ビジネスパーソンの熱い共感を呼び、人気を誇りました。
リーダーを目指す方々の多くが、番組でフォーカスされるプロジェクトのリーダーたちが絶望的とも言える困難を懸命な努力で乗り越えるようす、そして成功を掴んだときの達成感と心からのよろこびあふれるシーンに感動し、「自分もいつの日か、こんな大きなプロジェクトをリーダーとして成し遂げてみたい」と感じた番組でした。
そう、私たちの多くは心のどこかで『プロジェクトX』の主人公になってみたいと願っているんだと私は勝手に考えています。
ただし、番組を見た直後は感化されて意気込みを新たにするものの、翌朝、会社に出社すると、またいつもの自分に戻ってしまうという傾向も私たちの中には存在したりします。悲しいかな、これもまた現実なのです。
もう少し誇張して言うと、いざ、自分が主人公になるチャンスがめぐってきても、なぜか多くの人がスルーしてしまう。これが私たちの日常だということです。
私のコーチングを受けてくださっているお客様に、あるとき「以前『プロジェクトX』が好きだって言っていましたよね。今回の仕事はその主人公になるチャンスだと思うのですが、どうして自分から取りにいかないのですか?」と聞いたことがあります。
その方からは、こんな答えが返ってきました。
「あれは、ファンタジーですから」
プロのコーチの仕事は、相手の発言を丁寧にお聞きすること。そして、お相手の可能性を信じること。
ですので、すぐに否定することは少ないのですが、このときばかりは「いやいや、全部、実際にあった話なんですけど……」と否定したい気持ちがむくむくと湧き上がり、我慢するのがひと苦労だったのを覚えています。
「どうすれば自分が担当できるか」と考えられるか
なにもこの方が特殊なケースというわけではありません。実は多くの人が似た思考をしているのも事実です。
「大きな仕事を成し遂げたい」という願いを持ちながらも、現実には、「自分に自信がない」「貪欲に仕事を取りにいくのはカッコ悪い」「責任を負うのが怖い」……といったさまざまな理由で一歩を踏み出さずに終わりがちです。
ここにも、前述のような「それは私の担当ではありません」「私には決める権限はないです」「ウチの係の範疇じゃないです」など、部分最適が顔を出しています。
これでは、いくら言葉を発していても、結果的に何も行動につながっていません。
もちろん、そういう人は「リーダーになれない人」です。
一方、「リーダーになれる人」は、「(誰もやる人がいないなら)自分がやりたいと思います。どうすれば担当できますか? 何を決めればいいですか?」と、自ら役割を取りに行き、最初の一歩を踏み出そうとします。
逆説的に、「リーダーになれない人」は、「どこまでが自分の仕事なのかわからない」と言って悩むことが多いのです。
これは、私の主催で毎週1回開いているプロコーチ向けのスクールでのお話です。私は受講者の方々に毎回、「少しでも疑問に思ったことは、勇気を持って質問してほしい」とリクエストをしています。
オンライン開催だと画面越しに声を上げるのは勇気が必要だと思い、毎回冒頭で私からリクエストをして、積極的な参加を促しているわけです。
講師を務める私は、教えるかたわらで受講者のようすを画面越しに見ているのですが、あるとき、ひとりの受講者の質問をしたそうな表情に気がつきました。
結局、その方は質問をせず、その日の講義が終わると静かに退出されました。きっと聞きたいことがあったのだと思います。
このことが気になった私は、後日、その方と少しお話をしてみました。そして、そこで知った事実は次のようなことでした。
確かに質問したいことがあったのは事実です。ただ、内心は「早く誰か『質問があります』って発言してくれないかな」と思っていて、誰かが手を挙げたり、誰かが指名されたりすると、「ああよかった。自分は発言しなくて済んだ」とほっとする……。
ただ、実は心の奥底では、「自分も積極的に質問してみたかった」という思いも持っていたのです。