空から降り注いでくる無数の黒い鳥

私とムナカタは暗い山頂に立ち、その時を待っていた。

空の彼方から鳥の鳴き声が聞こえ始める。その声が近づいてきたかと思うと、鮮烈な風切り音があちこちに響き始める。

ヒュンッ、シュゥーーーーッ!

突然空から無数の黒い鳥が嵐のように降り注いでくる。宇宙船で爆走しながらアステロイドベルトに突入したらきっとこんな感じだろう。

クロウミツバメの集団が空から繁殖地に帰還してきたのだ。おそらく周辺には数百羽、もしかしたら千羽以上いるかもしれない。

クロウミツバメは夜に巣に戻ってくる。その翼は滑空に適して細長く、小回りがきかない。このため、木や大地にぶつかりながら乱暴に着陸するのだ。結構な勢いでぶつかっているので、脳震盪を起こすものもいるだろうし、絡まった蔓に突入して身動きがとれなくなるのもうなずける。どおりで死体天国になるわけだ。

私はなんとハッピーなんだろう!

いずれにせよ、これはミズナギドリやウミツバメなどの繁殖地でないと経験することのできない光景だ。私ももっと小規模なものなら経験があった。しかし、この島の状況は別格だ。

人間や外来生物の影響を受けていない南硫黄島では、海鳥たちは超高密度で繁殖している。おそらくクロウミツバメは山頂周辺だけで数万つがいが繁殖している。それがアメアラレと降り注いでくるのだ。

しかも彼らは光に誘引される性質がある。

体重わずか50g程度とはいえ、頭につけたヘッドランプめがけて四方八方から猛スピードで突っ込んでくるのだ。しかもその自動追尾型ミサイルの先端にはくちばしがついている。くちばしの先端は魚やプランクトンをとらえるため、鋭い鉤形だ。

ハエの時は精神面をやられたが、今回は肉体の危険を感じる。

しかし、それもまた喜びの一部だ。こんな経験ができる場所はなかなかない。しかも世界でここでしか繁殖していないクロウミツバメだ。

いやはや、この島に来ることができて私はなんとハッピーなんだろう!