前回調査を行った塚本さんからの事前情報

クロウミツバメが降ってくることはわかっていた。なぜならば、前回調査を行った塚本さんがそう言っていたからだ。

ここでクロウミツバメが繁殖していることを発見したのは彼である。1982年の調査の時に、この鳥が営巣しているのを見つけたのだ。そして、夜になって多数のクロウミツバメが大地に降り注ぐという稀有な光景に遭遇した。

私は調査に来る前に彼に会い、その時の写真を見せてほしいと頼んだ。

「いや、それが不思議なことに写真をろくに撮っていなかったんですよ。次々にクロウミツバメが降りてくる光景に夢中になってしまったんでしょうね。後で気づいてびっくりしましたよ」

写真を撮り忘れるほど鳥が降り注ぐのだ。そんな事前情報があったので心構えはあった。しかし、聞くのと体験するのでは全く違った。

普段の調査ではどちらかというと逃げゆく鳥を追いかけるのが商売だ。だが、ここでは鳥の方から私に向かって飛んできてくれるのである。実に感慨深い。

クロウミツバメ(写真=Tony Morris/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
クロウミツバメ(写真=Tony Morris/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

調査隊に課せられた「25年前からの宿題」

ただし、私がここにきたのは鳥の調査のためだ。感慨にふけっていたいところだが、そろそろ本業に戻ろう。

ゆっくりと歩きながら、ルート上に出現する鳥たちの種類と個体数を順々に確認していく。そして、落ちてくる鳥たちを捕獲しては足環をつけて放す。

鳥を捕獲するのは楽しい。古代からの狩猟本能に火がつくのだろう。時々噛まれて血がにじむこともあるが、それすらもイヤじゃない。

捕獲される鳥の中で最も多いのはクロウミツバメだが、それだけではない。中にはシロハラミズナギドリも交じっている。前回調査の記録によると、シロハラミズナギドリは山頂近くでは見つかっていなかった。海鳥の島内の分布も変わっているのかもしれない。

この山頂部での調査にはもう一つの目的があった。それは、25年前からの宿題である。

塚本さんの報告によると、クロウミツバメでもシロハラミズナギドリでもない鳥の足跡が土の上についていたそうだ。しかし、その正体が何だったかは確認できていない。この第三の海鳥を見つけることが私たちに課せられた宿題だ。