大統領顧問のTシャツには「私はワグネルだ」の文字

中央アフリカとワグネルの蜜月は続く。中央アフリカのフィデル・ゴンジカ大統領上級顧問は、ワグネルとの今後の関係を訊ねるCNNのインタビューに、「私はワグネルだ」と書かれたTシャツを着て臨んだ。ワグネルがPR用に配布しているものだ。

プリゴジン氏の訃報を耳にしたゴンジカ氏は、「悲しみ、私たちは泣いた。中央アフリカのすべての人々が泣きました」という。紛争が絶えない同国において反乱軍から身を護ってくれたワグネルに、感謝が尽きないとゴンジカ氏は語る。

CNNの記者が「アメリカは中央アフリカ共和国に、どの国よりも多くの人道支援を行っていますよね」と水を向けると、ゴンジカ氏は「しかし、それはまた別のことです」と応じた。「彼ら(アメリカ)はわれわれに食料を与え、ロシアは平和を与える。われわれは食料よりも平和を愛しているのです」

ゴンジカ氏はまた、「よく聞いてください。貧乏人に選択肢はないのです」とも語る。

「フランスに助けてもらいたかった。アメリカに助けてもらいたかった。彼らに頼んだが、助けることに同意したのはロシアだった。だから結局のところ、こうしてロシアにすがっているのです」

トップのプリゴジン氏が死亡したあとも、ロシアに頼らざるを得ない実情は変わらないだろう、とゴンジカ氏は語った。

「ワグネル帝国」の解体を狙うプーチンの意図

政情不安が続くアフリカの強権国家の指導者は、人権問題への対応を先送りしてでも、自身の政府を守ろうとする意識が強く働く。こうした国々に、ワグネルは武器や防衛サービスの提供を通じて影響力を拡大してきた。ビールやウォッカなどの販売など民間ビジネスも提供し、文化面でも親ロシア派の市民を育みつつある。

このような活動はワグネルにとって資金源となっているだけなく、国連総会で54票を持つアフリカ諸国を票田と化す作用を生み、ロシアにとって有利に働いてきた。西欧諸国がロシアに制裁を強めるなかで、海外から支持を取り付ける抜け道として機能している。

プリゴジン氏の死後、ワグネルの存在を危険視するプーチン氏は、企業の部分的解体と影響力の抑制を図るだろう。それでもアフリカ諸国がロシア依存から脱却できない以上、ロシアの影響力は依然残るものとみられる。

米シンクタンクのカウンシル・オン・フォーリン・リレーションズは、ワグネルがアフリカに関与した結果、人権侵害が疑われ、当該地域の治安が悪化したケースが多数あると実例を挙げている。2019年のリビアではワグネルが民間人地域に地雷を仕掛けたとされたほか、最近リークされた情報によるとチャドではワグネルが反政府勢力に加勢し、暫定大統領の追放を試みているという。

傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員

欧米の支援を受けるには人権問題への対応が必須となるが、ワグネルやロシアはその条件を設けていない。結果としてアフリカ諸国は容易に支援を求めることができるが、その結果待っているのは、傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員による支配と、国内の人権問題のいっそうの深刻化だ。

プリゴジン氏の死を受け、プーチン氏は強大で複雑に入り組んだワグネル帝国を解体し、ロシア政府による直轄化に動くとみられる。アフリカの資源を牛耳るだけでなく、国連総会での票をロシアの意のままに操る動きでもあり、国際社会への挑戦とも言えよう。プリゴジン氏の死後も続くロシアの暴虐が懸念される。

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