繰り返された虐殺、処刑、レイプ…

肩を震わせ、泣き崩れながらウスマン氏は語る。「やつらが私の国にしたこと、私の両親の目の前でしたこと……男として役立たずだと感じました」「やつらは私たちの財産を盗み、家を焼き払ったのです」。一度、盗まれたバイクにまだウスマン氏の名前が書かれているままの状態で、ワグネルの兵士が乗り回しているのを見たこともあるという。

ウスマン氏は、ワグネルが治安維持に貢献しているとの見方に真っ向から反抗する。「ワグネルは国を守るためにここにいるのではありません」「誰が言ったか知らないが、そんなことは大嘘だ!」

CBSは「ワグネルはあらゆるところに目を光らせているのだ」と述べ、取材に応じたウスマン氏が完全に怯えきっていたと伝えている。ウスマン氏は「仮名を使い、身元を隠し、隣国カメルーンで会うという途方もないことを条件に」して、ようやく記者の前に姿を現したほどだったという。

ウスマン氏の事例は、中央アフリカで起きている悲惨な殺害・略奪のほんの一例だ。CBSは、ワグネルによる民間人の虐殺、処刑、レイプの事例を複数確認していると指摘する。

利権を脅かす存在を徹底的に排除する

事業の邪魔になる存在は、何であれ徹底的に叩き潰す。それがワグネルの手口だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今年3月のある晩、中央アフリカで防犯カメラに捉えられたショッキングな一幕を報じている。

フランスの大手飲料会社・カステル社が現地で運営するビール醸造工場に夜間、ワグネルの集団が近づき、柵越しに火炎瓶を投げ込み火災を発生させた。商品のビールに引火し、出荷前の在庫の大部分が焼失した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この攻撃はロシアのワグネル・グループによるものであり、アフリカにおけるロシア対西側諸国の影響力争いが表面化した一例だと報じている。

ワグネルは1990年代から中央アフリカ共和国で製造されているカステル社のMOCAFビールに対抗する商品を製造するため、首都北部のバンギに新たなビール醸造所を設立した。新たなロシア製のビールブランド「アフリカ・ティ・ロール」として急速にシェアを拡大している。

軍事的支配だけでなく、このように商品や教育を通じたソフトパワーでも支配を強めているのが、ワグネルのアフリカ支配の実態だ。

アフリカが描かれた地球儀
写真=iStock.com/chrispecoraro
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ダミー会社で偽装…「ワグネル帝国」の全容解明は難しい

こうした事業のうち、ワグネルが関与を公にしているものはごく一部にすぎない。プリゴジン氏は多岐にわたる方法で、自身の行動やビジネスの実態を隠蔽いんぺいしていた。偽装工作やペーパーカンパニーの導入、そして移動手段の隠蔽などを通じ活動を秘匿化していたと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。

商売の実態を掴まれにくくするため、手の込んだ手法を多用していた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「プリゴジンの取引の多くは、厳重に管理された多数のダミー会社によって覆い隠されていた」と指摘する。この措置はワグネルに有利に働くのみならず、ロシアが影響力を隠蔽する目的も兼ねていたようだ。