「認知の歪み」は誰にでもある

「認知」「メタ認知」と言葉を紹介してきましたが、次に紹介する言葉は「認知の歪み」です。もともとの性格や経験によって築かれた考え方のパターンが「間違っている」あるいは「自分に要らぬ悪影響を与えている」こともあります。

プレゼンの例を引くと、「つっかえてしまったらどうしよう」と緊張する人はたくさんいますが、その中で「つっかえても聞いている人はたぶん誰も気にしないだろう」「一つのプレゼンでつっかえても、それで自分の価値が決まるわけじゃないし」と緊張が解ける人もいれば、「つっかえてしまうことは凄まじく恥ずかしいことだ」と考えてしまう人もいます。

心配しやすい、完璧主義といったもともとある性格に加えて、もしかしたら家族やパートナーからあまり肯定されず、「恥」を感じさせられる経験があったのかもしれません。

その結果、何があっても自分を責めてしまったり、些細なことで落ち込んだり、すぐに悪い方向に考えてしまったり、失敗を恐れて周りをコントロールしたいと思う気持ちが強くなったりといった考え方の癖ができてしまった人もいるでしょう。それは「認知の歪み」です。

ここで、認知を次のように再評価してみたらどうでしょうか。「プレゼンでつっかえてしまうことは凄まじく恥ずかしいことだ」という考えが妥当か、再度、評価してみるのです。

私の息子がボストンの学校で習ってきたことに「その問題は大きな問題か、小さな問題か? 問題の大きさによって対応も変わり、またすべての問題に対応しなければならないわけではない」というものがあり、とてもいい考え方だと思いました。

自分が抱いた感情を見逃さない

同じように、プレゼンもどれだけ大きな(重要な)プレゼンかによっても対応が変わると思います。

どれだけの聴衆がいるのか?

聞いている人の中に自分の将来に関わる重要な人がいるのか?

今までプレゼンでつっかえたことで、何か悪いことが起こったか? 恥をかいたとしたら、それで具体的に何か悪いことが起こるのか?

……といった質問を自分にしてみると、多くの場合は「プレゼンでつっかえても、自分の生活に特に大きな影響はない」という事実にたどり着くかもしれません。

もちろんそれですべての緊張が解けるわけではなくても、少しは安心感が増すのではないでしょうか。

認知の歪みは人に指摘されてもなかなかしっくりこないことも多いので、自分自身でそれに気づかなくてはならない場合もあります。放っておくと、ネガティブな考えに頭の中が覆いつくされてしまいます。

内田舞『REAPPRAISAL 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)

その結果、不安の感情に先導された行動によって例えば、プレゼンを完璧にできないならばやらない方がいいと諦めてしまったり、誰にも影響はないような一つの失敗を何年間も悔いたりと、かなりのエネルギーを浪費してしまうこともあるのです。

自分にとって悪影響を及ぼす認知があると気づくには、何よりも自分が抱いた感情を見逃さないことです。そして強い感情が湧いたときに立ち止まって、その感情の背景にある考えや経験、その感情から出てくる行動について思い巡らしてみること。

認知の歪みは長く持ちつづけるほど強くなってしまうところもありますが、何歳になっても遅くはないので、再評価を意識してみてください。

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